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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第102章
ヴィヴィはiPadに表示された絵画を、改めて見つめ直す。
正直、ヴァトーの絵画の鮮やかさに比べ、ベナールのは落ち着いた雰囲気を醸し出すそれで。
緑に覆われた島の岸部には異様に背の高い1本の樹、その根元には白石の彫像。
傍には白い服を纏った2人の女性と、何故か全裸でこちらに背を向け寝そべる1人の女性。
少し離れた場所にいる小柄な2人は、楽器を演奏しているらしい。
そして絵の中心にいるのは、白いドレスを纏い立ち上がった1人の女性。
彼女の愛しい人なのだろうか――対岸から小舟に乗って現れる赤い服を纏った人物に向け、両腕を差し延べている。
「ちょっと画像が荒くて、分かりにくいけれど……。少しでもSPの参考になれば、と思ってね」
そう続けた匠海に、ヴィヴィは液晶を兄のほうへ向けて尋ねる。
「これ……、対岸か手前か……、どちらが喜びの島……幸福の島なんだろう?」
「どちらだと思う?」
「ん~……、ヴィヴィは手前側かな? 女性達が楽しそうに宴を催しているように見えるし……。対岸の白っぽい建物の並び……う~ん……。画像が荒くてよく分かんないね」
「俺もそう思うよ」
そう発してヴィヴィの頭から手を離した匠海は、ピアノの方へと長い脚を向けた。
「そっか……。幸福の島、か……」
しげしげと絵画を見つめるヴィヴィとは別に、匠海はピアノで指を馴らし始めた。
(水面が、陽光に照らされていて、綺麗……)
小舟を浮かべた水面は、対岸の高い山々の向こうから差し込む太陽の光を跳ね返していた。
オレンジ色や薄紫色に映るそれは、果たして朝日なのか、夕日なのか。
ただ美しく輝くさまは、匠海の色彩豊かなピアノにとても似通っていた。
ヴィヴィはソファーから降りると、兄のいるグランドピアノへと近づいていく。
「……お兄ちゃん……」
「ん?」
「……ありがとう。ヴィヴィの為に、探してくれて」
常に仕事で忙しそうな匠海が、自分の為に手に入りにくい絵画を調べ、見せてくれた。
きっと兄は “自分は妹のスケートに関して、何もしてやれないから” と思い込んで、こんなにも心を砕いてくれたのだろう。
「どういたしまして。さ、弾くよ?」
「ん……。お願いします」
ヴィヴィは漆黒のグランドピアノの淵に片手を添え、兄の方へと向き直った。