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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第102章
「…………、えっと、もうひとつ、お願いがあるの……」
先ほどまでの笑顔とは違い、急に強張った表情でそう伝えてくるヴィヴィに、兄は不思議そうにその小さな顔を見つめ返す。
「なんだい?」
「……これ……」
そう言いながら、ヴィヴィがナイトウェアのポケットから取り出したものに、匠海の表情も引き締まり。
「…………、着けて、くれるのか……?」
兄の確認の言葉に、ヴィヴィはこくりと頷く。
「うん……。お兄ちゃん、着けて?」
「分かった……」
ピアノ用の長椅子から立ち上がった匠海は、妹から受け取り、その細く白い首の後ろに手をやって装着した。
自分の首の後ろから両手を退けた匠海の目の前で、ヴィヴィは胸元に輝く馬蹄型のネックレスを指先で撫で、そしてそれを掌の中に握りこんだ。
「もう、一生……、肌身離さず、着けていたい……っ」
そう呟くヴィヴィの声は、微かに震えていて。
「大丈夫。俺は絶対に、ヴィクトリアを裏切ったりしない」
しっかりとした口調でそう言い切った匠海を、ヴィヴィはゆっくり顔を上げて見つめる。
「ん……。信じてる。ヴィヴィも――」
「うん?」
「ヴィヴィも、お兄ちゃんの事、絶対に裏切らないし、ずっとずうっと愛してるから」
正直、一時期のヴィヴィは兄の存在を否定し、恋心を見失っていた。
けれどもう、絶対にそんなことは無いと誓ったヴィヴィに、匠海はその細い両肩を掌で包み込み、心底幸せそうに微笑んでくれた。
「ああ。信じるよ」
上半身を屈ませた匠海が、妹の額に唇を押し付け、ゆっくりと離れていく。
その柔らかい感触を、目蓋を閉じて感じていたヴィヴィが瞳を開くと、自分を見下ろす匠海の、包み込む様な暖かな眼差しがそこにはあった。
「ヴィクトリアらしく、滑ってきなさい」
匠海らしいその激励の言葉に、ヴィヴィは灰色の瞳を細め、力いっぱいに頷いたのだった。
「……うんっ」