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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第102章            

 ISUの手配したバスで会場入りすると、ランニングコースを使ってゆっくりと身体を温め、滑る身体へと仕上げていく。

 ジュニアの男子シングルのFPを終え、製氷が終わり、シニアの女子シングル6分間練習が始まる。

 日本語と英語で読み上げられる、各選手の名前と国籍、そして過去の戦績。

「6番、篠宮ヴィクトリアさん、日本。14歳で出場した全日本選手権では、並み居るお姉さん達を抑えての優勝。15歳でシニアデビュー後、平昌五輪 優勝、世界選手権 初優勝。以後、出場する全ての大会での素晴らしい成績は皆さんもご存じの通りでしょう。3回転アクセルの不調も乗り越え、この度、3回目のグランプリ・ファイナル制覇を目指します」

 大層なヴィヴィの紹介が読み上げられると、今日一番の歓声が客席から起こる。

 しかし当の本人は確認作業に忙しく、全然聞いていなかったが。

 2回転アクセルを1本、3回転アクセルを2本飛んで全てクリーンに降りたヴィヴィに、リンクサイドのジュリアンは3回転アクセルでのGOサインを出した。

 氷を降りてから約30分間。

 バックヤードで柿田トレーナーとアップをしながら順番を待っていたヴィヴィは、とうとう自分の番になりリンクサイドに入った。

 今日はいつもの様にiPodは使わない。

 昨夜、匠海が演奏してくれた音が、ずっと絶え間なく頭の中で流れていた。

 5番滑走のロシアの選手がキスアンドクライへと引き上げる中、ヴィヴィはリンクに入り最終確認を行う。

 冒頭のアクセルの踏切、回転軸の細さ、ステップからのフリップの入り。

 日本代表ジャージを脱ぎ、ジュリアンの元へ戻る。

 19:30から男子シングルのFPを控えるクリスも、リンクサイドに駆け付けてくれていた。

 コーチの確認事項に一つ一つ頷き、肌色のタイツを捲って、白いスケート靴の紐に緩みがないか確認し。

 ロシアの選手の得点が読み上げられるのを聞き流しながらクリスを見つめると、双子の兄はヴィヴィの両手を握りしめて英語で一言。

「受験生パワー、見せつけてやりなさい」

「……は、はいぃ~~っ クリス様ぁっ」

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