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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第102章
双子の緊張感のないやり取りに、大きく両肩を上げて見せたジュリアンも、最後に一言。
「SMILE、ヴィヴィ!」
「はいっ 行ってきますっ!」
気合を入れて一度大きく屈伸したヴィヴィは、リンクへと駆け出して行く。
そこに待ち受けているのは、目の覚めるような白と青の世界。
「6番、篠宮ヴィクトリアさん、日本。 On the ice, No.6 The representative of Japan, Victoria Shinomiya」
両手を大きく広げ歓声に応えたヴィヴィは、時間を使って心を整える。
ジャッジパネルの左奥には、20台を超える各社のカメラマン。
2階席も合わせ、リンクをぐるりと取り囲む10,000人もの観客。
青一色で統一された会場の天井は高く、60m×30mあるリンクをより広く感じさせる。
ただ不思議なもので、調子が良い時はこれが狭く感じるのだ。
(うん……いい感じ……)
流しながら俯けば、首から下を包むのは、アオザイに似たシンプルな薄紫色の衣装。
ひらひらもふわふわもしていないが、両肩のラインに沿った襟元と大きくV字に開いた背中の透明な大小のビジューは、天井から降り注ぐ熱いくらいの照明を跳ね返して光り輝いていた。
その下に隠れているペンダントトップを指先で確認したヴィヴィは、所定の位置につきポーズをとる。
繊細な輝きを放つピアノの調べに乗り、胸の前で両手を交差させたヴィヴィの頭が、下から円を描くようにゆったりと持ち上げられる。
それはまるで午睡の微睡から醒めたばかりの、アンニュイな微笑み。
寝起きに伸びをする様に柔らかく持ち上げられた両腕と、ひと蹴りで滑らかに滑るエッジに乗った美しいスパイラル。
ターンを挟んで滑り始めたヴィヴィは、リンクの隅から隅までを使い急速にスピードに乗ると、バックでの助走から前へと踏み切り、きっちりと3回転半回りきり、後ろ向きに着氷する。
途端、場内からは匠海のピアノを掻き消す歓声。
リンクの隅で、立て続けに3回転ルッツ + 3回転トウループを降りる。
着氷後も衰えないスピードのまま、レイバックスピン、チェンジフットコンビネーションスピンと、4つ目までの要素を着々と熟していきながらも、頭の中では9月半ばの自分を思い起こしていた。