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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第102章
その頃の自分は、留学を終え帰国した匠海と躰の関係だけは続いていて。
自身の『喜びの島』のイメージ――夢想的な楽園 は、本当にただの空想の産物でしかなかった。
兄妹という許されない2人でも愛を育み、互いを与え合う事を許される……そんな、ある筈のない憧れの場所。
掴んでいたエッジから手を離し、再度トップスピードに乗ると、リンクいっぱいを使って、チョクトー → モホーク →スリー → クロスロール からのトリプルフリップ。
3つのジャンプを手堅く決めたヴィヴィは、輝きを増すピアノの和音に乗って、氷の上を居ても立っても居られないというさまで駆け出した。
一つ一つ深く丁寧にステップを踏みながらも、上半身は腰から上を大きく使い、兄の演奏に必死に喰らい付いていく。
目も眩む程、眩しく光り輝いた色鮮やかな世界。
そここそが、自分が渇望している喜びに包まれた楽園。
そんな場所は、やっぱりこの世界にはどこにもないけれど。
それでも構わない。
匠海が居る場所――そこが自分の居たい場所で、愛を確かめ合う場所で、幸せな記憶を積み重ねていく場所。
喜びも、幸せも、苦しみも、哀しみもすべて、兄と一緒に共有し、慰め合い、分け与えられればそれで。
高揚した気持ちでステップを踏み終え、その脚で190度開脚したスパイラルで締めくくる。
フライングの入りからアップワードのキャメルスピンは、身体中から零れ落ちそうな幸せを天に捧げる様に徐々に両腕が掲げられ、そして柔軟性と回転速度を如何なく発揮したI字スピンへ。
私の “お兄ちゃん” 。
貴方を好きだと思うだけで、愛していると感じるだけで、身体の奥底から湧き上がる喜び。
鼓膜を震わすのは、見つめ合い、触れ合う度に溢れ出す、幸福の音色。
これから2人が息絶えるまで、それは永遠に尽きることはない。
そう。
私の喜びの島は、 “ここ” に在る――。
滑り出しと同じく胸の前で両腕をクロスしフィニッシュしたヴィヴィは、会場に響き渡る大歓声の中、一度俯き目蓋を閉じ。
そしてゆっくりと上げた小さな顔には、紛れもない喜びの表情があった。