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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第24章                         

 氷を削る音と、空調の鈍い音だけがする深夜のリンク内――。

 画面に映し出されたのは、トリプルアクセルの回転が足りず氷の上で転倒を繰り返すヴィヴィと、コンビネーションスピンでポジション移動が上手くいかず、ふらつき倒れてしまうクリスの姿。

 黒いウェアに氷の屑を纏いフラフラになった双子は荒い息のままフェンス傍まで戻ると、ポケットから三センチ四方の小さなケースを取出し、その中のフィルムを指先でつまむ。

 お互いそれを舌の下に含むと、きっと前を睨んで再度リンクへと飛び出していく。 

 その先に待っているのは大観衆の観客の中で衣装を纏いフィニッシュポーズをとる、二人のそれぞれの映像――。

「「僕に、私に、力を与えてくれるもの――」」と双子の声。

『舌の毛細血管から瞬時に取り込まれるナノ化エネルギー――ナノPOWER』

 力強い男性の声のナレーションが入り、CMはそこで終わった。





「CMの出来上がりを見てどうですか? ……大丈夫ですか、お二人とも――?」
 
 司会進行役の女性が大型ビジョンで流されたCMの感想を双子に求めようとしたが、その視線の先には茹でだこの様に真っ赤になった双子がいた。

「あ、あわわわ……」とマイクを握ったまま、意味の分からない言葉を発するヴィヴィ。

「お、お目汚しをしました……」と力ない声を発し、こちらも顔を赤らめたままぺこりとお詫びするクリス。

「大丈夫ですよ? とっても素敵でしたよ?」とフォローする女性司会者。

 その後やっと落ち着いた双子は何とか質疑応答と製品のPRを終え、初めての経験で精神的にくたくたになったのだった。






 ジャパンオープン当日。

 リンクを囲むフェンスには、双子のスポンサーとなった大塚薬品工業の広告があった。

 そして双子に付き添うのは大塚から派遣されたトレーナー。

今まで双子にはトレーナーがいたがそれはリンク専属のトレーナーであり、双子に付きっ切りと言うわけではなかった。そしてこの後に控えているグランプリシリーズを始めとした諸大会には、こちらも大塚が手配してくれた管理栄養士が帯同してくれることとなっている。

「頑張ろう……」

 いつの間にか隣に立っていたクリスが、小さな声でそう呟く。その視線の先にはヴィヴィが見ていたものと同じもの。


 
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