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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第24章
お祭りの様に和やかに進んでいく試合の最中。
リンクサイドで自分の番を待つヴィヴィの表情は、周りとは異なっていた。
不安と恐怖――。
何故かここにきて、体の震えが止まらないのだ。練習では本番を想定して直前練習等の過ごし方も体に叩き込んできたのに、まったくそれが役に立っていない。
(あんなに練習してきたのに……あんなに演じたかった『サロメ』なのに……怖い――)
「………………っ」
見て取れるほどに諤々と震える両足を、ストッキングに覆われたスケート靴の上から太ももに向かってぺちぺちと叩いて温めていく。肩に入った力を抜こうとその場で飛び跳ねたり、首を大きく回したりしてみる。
けれど一向に震えは止まらず、それどころか歯の根まで噛み合わなくなってきた。
(失敗なんて、出来ない……私がやるって言ったんだもの……ここで酷評されたら、もしかしたら今度こそプログラムを変更されてしまうかもしれない……)
頭の中でぐるぐるとそんなことを考えていると、他チームの選手が滑り終わった。笑顔で礼をすると苦笑いしながらチームメイトの所へ戻っていく。そしてヴィヴィの目の前では、係の女性がヴィヴィのためにリンクフェンスを開けてくれた。
(逃げられない……逃げちゃいけない……!)
ヴィヴィは生唾を飲み込むと、強張った表情のままリンクへと飛び出していった。
ジャパンオープン用に用意された各国のチームウェアを羽織り、先に滑った欧州の選手の得点を待ちながら体を温める。
ジャンプの軸を確認しながらウェアを脱ぐと、露わになった衣装に場内が少し騒然となった。一部テレビやネットで公式練習の映像が流されたらしかったが、ヴィヴィの衣装を初めて目にした観客が多かったようだ。
衣装選びでは意見は真二つに分かれた。
ヴィヴィを筆頭に、「血を連想させる赤がいい!」という女性陣の意見と、「生々しすぎて赤は駄目! サロメは無邪気な少女。オリンピックでも縁起のいい青系がいいって!」という男性陣の意見。
意見が纏まらず、最終的には三つのデザインが上がってきた。
ベリーダンスの衣装を基調とした、けれども露出は控えた、水色の衣装。
白いシンプルなドレスにまるでベールにも血にも見える朱色が一筋斜めに走った、洋風な衣装。