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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第24章                         

 そして今ヴィヴィが纏っている――黒地に裾の赤と腕に巻きついたベールの赤が映える、お腹と背中の露出があるベリーダンス風な衣装。

『サロメはまだ一般には馴染みの少ない歌劇……だから初めはストーリーに詳しくなくても、見た目で想像を膨らますことのできる、この赤い衣装がいいわ――』

 最後はヘッドコーチであるジュリアンの鶴の一声で決まった。





 衣装選びのことを思い出していると、前の選手の得点がアナウンスされる。その声にはっと我に返ったヴィヴィは急いでフェンス傍に待機しているコーチの元へと戻っていく。するとその途中、

「「「ヴィヴィ~~っ!!」」」

 大声で自分を呼ぶ声が選手席のほうから聞こえてきた。滑りながらそちらに視線を向けると、田内と村下とクリスが

「「「出てこいやぁ~~っ!!!」」」

 と大声で叫んでポーズを決めていた。三人はいつの間にか息ぴったりで、マイクを持つふりをする右手の位置、後ろへと反り返る角度、大きく振り上げられた親指を突き出した握りこぶしの角度まで完璧に決まっていた。

 会場にどっと大きな笑いが漏れる。

「………………」

(わあ……佳菜子ちゃんまで、大股開けすぎ……)

 あっけにとられたヴィヴィは目をぱちくりさせながら、コーチの元へと寄る。ティッシュケースを受け取りいつも通り鼻を噛んだ時、ヴィヴィはすぐに気付いた。

(あれ……震え、止まってる……)

 両手を広げてしげしげと見つめるが、今までヴィヴィを襲っていた震えはすっかりと消え失せていた。

「ぷっ…………くっくっくっ……」

 フェンスに両手を置いて屈伸しながらヴィヴィは俯いて吹き出してしまった。手荒い応援を受けたヴィヴィは驚きでか、緊張が解きほぐされたらしい。

(ありがとう……)

 ヴィヴィは心の中でチームメイトに感謝しつつ、体を起こしてジュリアンを見上げた。

「Smile、ヴィヴィっ!」

 いつも通りそう言って笑うジュリアンに、ヴィヴィは無邪気な笑顔を返すと大きく頷いてリンクへと出て行った。

 胸元に隠れたネックレスを指先で布越しに触れ、スタートの位置に付く。この会場に足を運んでくれいている筈の匠海へと思いを寄せながら――。

(お兄ちゃん……見ていて――)

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