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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第103章
「Merry X’mas. お兄ちゃん♡」
そう囁いたヴィヴィの声は砂糖菓子の様に甘ったるく、その表情は蜂蜜のように蕩けていて。
そんな最愛の妹の幸せいっぱいの顔を見つめ直した匠海も、端正な顔をこれ以上無いほど綻ばせて口を開いたのだった。
「ああ、Happy X’mas. 俺の可愛い恋人さん――」
12月23日(水)は篠宮家の全員が揃っての、家族だけの暖かなクリスマスを過ごし。
そしてその4日後――12月27日(日)。
全日本選手権 3日目。
東京都渋谷区神南――松濤のリンクのある渋谷駅から、わずか1駅分離れただけのそこ――国立代々木競技場第一体育館では予定通り、試合が進んでいた。
『代々木第一体育館。13,000人満員の観客が、息を呑んで見守ります。女子シングルFPの最終グループ。6分間練習が始まりました。さあこれは最後まで、どうなるか分からなくなってきました。篠宮と宮平との一騎打ち――優勝争いです。もちろん、この後に控えます本郷も、SPでは60点代をマークしています。八木沼さん、どう見ますか?』
解説の塩原アナウンサーが、そう口火を切る。
「そうですね。宮平選手は昨日のSP、パーソナルベストを大幅に更新した、素晴らしい演技でした。一方の篠宮選手、SPでステップからの3回転フリップが、氷の溝にエッジを取られて、1回転になってしまい……。シニアに上がってから、初めてのSP2位発進。こういうミスは、本人ではどうしようもない事ですから、気持ちを切り替えて、FPは落ち着いて行って欲しいですね」
八木沼の冷静な解説が続く中、画面が切り替わる。
『そうですね。今、映像では、昨日の篠宮のSPが流れています……。冒頭の3回転アクセル、続く3回転ルッツ + 3回転トウループは、出来栄え点も貰えた良いジャンプでしたが、まさかのフリップでのミスでした』
「たまにあるんですよね。前迄に滑った選手の、エッジで削れた溝に乗ってしまう事は。あ……、篠宮選手、アクセル飛びますね」
氷上、ヴィヴィがアクセルの助走に入っているのが、映し出される。
赤い生地に金糸の刺繍の胸当てと、左右セパレートに割れた赤地のスカート。
それらを繋げるように蒼色のサリーをタスキ掛けにした衣装を纏っていた。