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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第103章
「20番。篠宮ヴィクトリアさん。松濤国際スケートクラブ」
女性の声でコールされたヴィヴィは、ジュリアンとクリスと言葉を交わすと、軽く屈伸してリンクへと駆け出して行った。
『名前が呼ばれ、力強くリンクへと飛び出してきました。篠宮にとって、全日本は3年連続の金メダル。SP2位と出遅れましたが、SP1位の宮平までは1.94ポイント。全日本タイトルの重み……。篠宮が一番、誰よりも知っていることでしょう。時間一杯を使って、気持ちを落ち着けて……、ポジションは、決まりました――』
真っ白な氷の中央、ヴィヴィは右掌を下へと向けて真っ直ぐ上へと伸ばし、左腕は右肘を掴み頭の上で四角を作り。
左へと視線と膝を向けた、ポーズを決める。
「いつも通り、落ち着いて滑れば大丈夫です」
『逆襲のフリー……。『サムソンとデリラ』が幕を開けました。出だしのジャンプ、ミスなく行きたい――!』
トップスピードに乗ったヴィヴィが、前向きに踏み切る。
「トリプルアクセル――高い!」
『今シーズン1番の出来に見えますっ 続くコンビネーションはどうか?』
会場が大きな拍手ののち、見守る中、リンクの隅で3回転+3回転を危なげなく着氷する。
「トリプルアクセル―トリプルループ」
『3回転を付けた!』
そして、左胸の下で下向きに掌を合唱させる助走から飛んだのは、3回転ルッツ。
「トリプルルッツ。着氷後の流れ……加点を貰えますね」
朗々とチェロが歌い上げる、デリラのアリア「愛よ か弱い私に力をかして」が鳴り響く中、ヴィヴィはバタフライからスピンへと入る。
「フライングキャメルスピン……。フライングチェンジフットコンビネーションスピン。一つひとつのポジションが明確で、美しいですね」
『曲はバッカナールヘと変わり、演技は後半に入りました』
オーボエの妖しい音色の中、氷の上、頭上で両手の甲をクロスして合わしたヴィヴィが、ジャッジに誘惑の流し目でアピールする。
『目力でもアピールし、曲の世界観を際立たせていく――』