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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第103章
「う~ん……、僕達の名前が読み上げられたのと、『此度志望む 東京大学の入学試験の合格 を果さしめむべく――』ってところは、聞こえたかな……?」
草履を履きながらそう返してきたクリスに、ヴィヴィも父の手を借りて草履を履いた。
「しかし、ヴィヴィは今年も可愛いねえ~」
目尻を垂らしながら、そう親バカ発言をしたのは、やはり父グレコリーで。
「そ?」
「ああ。今年はレトロな感じで、なおさら可愛いよ。ほら、写真をいっぱい撮ってあげようね」
父は深緑の羽織と着物を纏った首に一眼レフカメラを掛け、朝から熱心に皆の写真を撮りまくっていた。
「え、もういいよ~。お家でもいっぱい撮ったでしょう?」
「ヴィヴィの お・馬・鹿・さん♡ “神社にいるお前達” を撮りたいんじゃないか!」
愛娘の突っ込みに満面の笑みでそう発してきた父に、ヴィヴィはもう好きに撮ってくれと放置することにした。
「確かに、ヴィヴィ、可愛い……」
クリスもそう褒めてくれるヴィヴィの着物は、茶に近い渋い臙脂(えんじ)色のもので、裾と片袖の袂へ向けて薄紅色のグラデーションに染め上げられており、古典柄の華が彩り良く描かれている。
黄金色の帯は、背中で大輪の花の様に豪華に結われていた。
「ありがとう。クリスも茶色のお着物って、初めて見る。とっても似合ってるし、なんかヴィヴィとお揃いって感じで、嬉しい」
そう言ってにっこり微笑んだヴィヴィに、クリスは妹のフワフワの毛皮を纏ったその肩を抱き寄せると、人人人で長蛇の列が出来ている参拝客で、はぐれない様にと気遣ってくれた。
ちなみに匠海は灰色の羽織着物、母ジュリアンは藤色の小袖に白地の帯でシックに決め、息子とラブラブで腕を組んでいた。
長蛇の列を抜けてやっとお賽銭を放り込んだ一行は、本殿から社務所の方へと移動していた。
履きなれない足袋と草履で、ちょこちょこ小刻みに歩いていたヴィヴィは、皆とはぐれそうになり、すぐ近くにいたクリスの手を握った。
振り返ったクリスが、ヴィヴィを見下ろしてくる。
「どうしたの……?」
何とも言えない表情を浮かべている妹に、クリスがその顔を覗き込んでくる。
「ん……。なんか1年経つの、早いなって……」