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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第103章
高いパーテーションの隙間から、じい~と兄の働く姿を盗み見していたヴィヴィだったが。
「あの、当部署に何か御用ですか?」
女性の声で後ろから英語で声を掛けられ、驚いたヴィヴィはわたわたと振り返って薄い唇を開く。
「えっ!? あ、え、えっと、お、お兄ちゃんに……っ」
(あ゛ぁ……、 “お兄ちゃん” じゃなくって、名前で言わないと分かんないのに、ヴィヴィの馬鹿っ)
頭の中で自分を叱咤したヴィヴィは、言い直そうとしたが、女性はすぐにヴィヴィの正体に気付いてくれた。
「ああ、お嬢さん! ヴィクトリアさんですよね? 初めまして。アセットマネジメント部の築地です。会社に来られるの、初めてじゃないですか?」
30歳程のその女性は、ヴィヴィと同じくらいの身長で快活で、ハキハキ喋る気持ちの良い人だった。
「えっと、小さい時はよく来てたみたいですけれど……。最近は全然です」
彼女のおかげで少し落ち着いたヴィヴィは、そう答えるとにっこりと笑いかけた。
「今日は、お兄さんにご用ですか? どうぞこちらへ」
そう言ってヴィヴィを先導する築地に、
「え? 入っていいんですか?」
「もちろん。だって社長のお嬢様、なのですから」
驚いたヴィヴィにそう答えた築地は、匠海の傍まで導いてくれると、そのまま声を掛けた。
「篠宮さん、妹さんが来られていますよ」
「……お、お兄ちゃん……」
築地の陰に隠れるようにそう兄を呼んだヴィヴィに、匠海が切れ長の瞳を大きく見開いた。
「ヴィヴィ! ああ、もうこんな時間か」
食事の約束を失念していたのか、腕時計で時間を確認した匠海に、
「お約束ですか?」
兄の傍に居る3名の内の1人の男性が、英語でそう尋ねる。
どうやら社内の公用語は英語らしい――CEOが父グレコリーだから、当然といえば当然か。
「ああ、ちょっと1時間ばかり、ランチに出てくる。悪い」
片手を上げて謝る匠海に3人が揃って「大丈夫です」と返してきた。
「ではその間に、Funds-i 内外7資産バランス・為替ヘッジ型、に関するこれらの資料、集めておきます」
書類をかざした社員に、匠海が胸からメモを取出し、さらさらと何か書き込む。