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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第103章
「それと、Funds-i 外国REIT・為替ヘッジ型の対象案件の、JPモルガン・S・Lの採用銘柄の見直し……、この3つに関して確認しておいてくれるか?」
びりっとメモを破いて1人に渡した匠海に、3人と築地が兄とヴィヴィを交互に見つめて微笑んだ。
「分かりました。行ってらっしゃい」
「頼む。じゃあ、行こうか、ヴィヴィ」
そう言いながら、ヴィヴィの背に掌を添えて促した匠海に、
「あ、ちょっと待って!」
「え?」
兄を止めたヴィヴィは、ぐるりとフロアを見渡す。
どうやらヴィヴィの存在は、そこにいる80名程の社員の注目を集めていたらしい。
五輪金メダリスト 兼 社長の娘 なのだから、当たり前か。
ヴィヴィはぴしっとその場に立つと、よく通る声で発する。
「み、皆様。うちの不肖の兄が、いつもお世話になっております。なかなか頑固で、気難しいところもあるかと思いますが、何卒これからも可愛がってやって下さい――」
そう挨拶したヴィヴィは、腰を折って90度のお辞儀をすると、ゆっくりと頭を上げた。
一瞬の静寂ののち、辺りがざわざわと騒がしくなる。
「不肖……」
「が、頑固……?」
「へえ、気難しいんだ……」
「か、可愛がるぅ~~……っ?」
口々にそう囁き合った社員は、すぐに声を上げて笑い出した。
「あははっ」と一際大きな声で笑う声が聞こえてそちらに視線をやると、先程まで匠海と真面目な顔でやり取りしていた男性社員が、腹を抱えて笑い転げていた。
(ん……? ヴィヴィ、何か変なこと言ったかな……?)
こてと首を傾げながら隣の兄を見上げれば、匠海は両手で頭を抱えていた。
「ヴィヴィっ お前……っ」
「ん? “身内の挨拶” って、こうするんでしょう? ヴィヴィねえ、ネットで調べたんだよ~?」
にっこり笑って自分の正当性を主張する妹に、匠海はもうどこから突っ込んでいいか判らなかったらしい。
「そ、そうか……」
「ヴィヴィ、偉い? 良い子?」
自分を人差し指で指して、ニコニコ尋ねるヴィヴィに、
「偉いえらい……、良い子良い子……」
匠海は呆れ顔で、その金色の頭を撫でなでしてくれた。
(えへへ~~♡ お兄ちゃん、大好き)
そう心の中で萌えていたヴィヴィだったが、そう取ったのは自分だけではなかった。