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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第103章             

「うわあ……、篠宮さんのあんなとこ、初めて見た」

 こそこそ話をするその声に視線をやれば、20代半ばくらいの綺麗な女性社員が、隣の女性2人と話していて。

「なんか、ね?」

「うんっ 可愛い~っ」

 小さく黄色い声を上げる3人に、ヴィヴィは直感的に危険を感じる。

(あ、まずいっ 女性ファンが増えてしまう……っ)

 そう察知して、ヴィヴィは咄嗟に口を開いた。

「あ、兄はやめたほうがいいですよ? なんたって、変――もごもごっ」

 いきなり後ろから大きな掌で口を塞がれたヴィヴィは、その中で言葉を続けたが、

「え? ヘン……?」

 聞き取れなかったらしい社員達が、ヴィヴィに向かってそう尋ねてくる。

「何でも無いから! じゃあ、後はよろしく」

 そう会話を強引に打ち切った匠海は、ヴィヴィを抱える様にその場を後にした。

 エレベーターホールにまで連れて行かれたヴィヴィは、匠海にドイツ語で問い詰められた。

「お前……。さっき、 “変態” って言おうとしただろう?」

「うん」

 悪びれる様子も無く、こくりと頷くヴィヴィに、壁に手を付いた匠海はがくりと脱力する。

「俺の会社での評価を下げて、何がしたいの?」

 その兄の追及に、ヴィヴィは桃色の唇を可愛らしく尖らせる。

「え~~……。だって……」

「だって?」

 にじり寄ってくる匠海に、ヴィヴィは本音をぶちまける。

「お兄ちゃんのファン、これ以上増えたらやだもんっ」

 ヴィヴィの発したまさかの理由に、匠海はきょとんとした後、苦笑した。

「……、ふっ いないよ、そんなもの」

「いるもんっ 絶対」

 両拳を握り締めて主張する妹を、匠海は到着した空のエレベーターへと押し込む。

「ほら、乗って」

「は~い。ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」

 ヴィヴィは扉が閉まっているのを確認し、恥ずかしそうに続けた。

「……カッコいい……」

「は? 何が?」

 プレジデントフロア専用のカードキーを使って、フロア指定をしていた匠海が、くるりとヴィヴィを振り返る。

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