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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第25章
ジャパンオープンの翌々日。
NHKでは篠宮兄妹を半年もの間、密着したドキュメント――「アスリートの魂」が放送された。初回はBS1での放送であったため、視聴率はそれほどの数字ではなかったそうだ。しかしその三日後のNHK地上波の放送では、番組史上、記録的な視聴率を叩き出したらしい。
放送時間が練習時間や睡眠時間と重なっていて見られなかった双子は、朝比奈が録画しておいてくれたものを土曜日の昼に家族とライブラリーで視聴していた。
見終わった感想は――意外。
テレビとは視聴者を煽り、視聴率を取ってなんぼのもの。
そう思っていたヴィヴィは、てっきり色んな挿入曲を使ったりしてドラマチックに仕上げられているんだろうな、と高を括っていたが実際は違った。
番組はBGMを最小限に抑えナレーターの音声のみで、ただただ淡々と対象物であるクリスとヴィヴィを映像に収めていた。だからこそ際立って浮かび上がる競技スケートの厳しさと、トップスケーターの拘りとそれに伴う苦悩。
(テレビって……凄い……)
ヴィヴィがそう心から三田の仕事に感服していると、左隣からずるると鼻をすする音がした。なんだろうと思い隣を振り返ると、父グレコリーが滂沱(ぼうだ)の涙を流しながらエンドロールを見つめていた。
「ダ……ダッド……?」
いつもおちゃらけているがこれでも一応世界有数の企業のトップである父。その人目もはばからない泣き姿に、ヴィヴィはちょっと引いてしまった。けれど父の向こうに座っている母ジュリアンは、そんな父を愛しいものを見る温かい目で見つめ、瞳を細めている。
「ヴィ……ヴィヴィがっ! ク、クリスが、あんなことになっていなたんてっ……!」
父が鼻をチーンと噛みながら、嗚咽を交えてそう訴える。
「…………?」
(あんなこと……? ああ……マムに刃向って殴られそうになったことか……)
父の涙の理由が分かり、ヴィヴィは小さく肩を竦ませた。
カットされるかと思っていた――ロシアから帰省した直後、コーチ陣の前でサロメを滑って見せたシーン。それはしっかりと映像も音声も拾われ、ご丁寧に日本語の字幕付きで放送された。