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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第104章
「ええ。古来より日本では、火は神聖なものと考えられていて。火打ち石で火花を起こし、不浄を断ち、邪を祓い、無事安泰を祈願するのですよ。私の実家は大工でして、母が毎朝出かける父の安全を祈願し、火を起こしていました」
双子が生まれた時から篠宮家に仕える運転手はそう説明すると、目の前に現れた青山学院大学の方へ、ハンドルをゆっくりと切った。
「へえ……、素敵」
「だね……」
そう囁いて互いの顔を見合わせた双子は、各々の心の中で “受験成功を祈る 家族の想い” を感じ取っていた。
「さあ、着きましたよ。お二人とも」
正門前は人目を引く為、少し離れた場所で車を止めた運転手は、双子をそう促すと、下車して外からドアを開けてくれた。
「ん、行ってきま~す!」
「行ってきます……」
それぞれそう発して制服に包まれた身体で車外に出た双子は、運転手に手を振って試験会場へと向かった。
BSTからは双子以外にこの時間に試験を受けに来る生徒もおらず、真行寺 円も受験会場が違う為、双子は周りに誰も知る人間がいなかった。
ただ、正門の前に予備校の担任がいて「頑張れよ!」と激励して貰い、それで随分と落ち着けた。
お洒落なキャンパスに気を取られるヴィヴィの手をむんずと掴んだクリスが、すたすたと互いの試験会場となる建物へと引っ張っていく。
長身で金髪の2人は、周りは受験戦争まっしぐらで血眼の受験生ばかりにも関わらず、その見た目と認知度で注目の的だったのだが、鈍感なのであまり気にならなかった。
同じ教室で試験を受ける事となったクリスは、最後に一言、双子の妹を見下ろしながら呟いた。
「ヴィヴィ……。今までやってきた事、信じて……。今まで頑張った自分、信じて……」
「……うん。ヴィヴィ、頑張るっ クリスも、寝ちゃ駄目だよ?」
気合いの入った表情でそう言って、両拳を胸の前で握り締めたヴィヴィに、クリスはその金色の頭をぽんぽんと撫でた。
「うん……。じゃあ、また、お昼に……」
そこで別れた双子は、それぞれの席へと移動し、必要な文具を机の上に出して試験開始を待つ。
一通り試験の説明を受け、開始時間まで待たされ、やっと問題と解答用紙が配られた。