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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第104章
第1志望の東大 文科Ⅰ類。
自己採点が842点/900点だったヴィヴィはA判定(合格可能性80%以上)だが、A判定の中では150位/156人だったのだ。
今年の文Ⅰの募集人員は、前期日程で401名、後期日程で約20名。
その中に、果たして自分は喰い込めるのか――東大の前期試験を受ける資格を、得られるのかどうか。
ヴィヴィにはそれが、とても危うい判定に思えた。
「やっぱり、数学……」
2日目の数学で点数を落としてしまったのが、その要因か。
薄い胸の中が、ざわざわと落ち着きを無くして揺れる。
もし、センター試験終了時点で、東大文Ⅰの受験資格も得られずに、受験を終えてしまったら――。
「……――っ」
ヴィヴィは胸の前で両手を握り合わせると、ぐっと息を呑み込んだ。
(クリスが……。クリスがあんなに頑張って、1年半もヴィヴィを励ましてくれたのにっ 毎日毎日、スケジュール通りに進むように、ヴィヴィのモチベーションが落ちないように、必死に頑張ってくれたのに……っ)
それにスケートに関してもそうだ。
今シーズン、受験生の自分達の為に、取材規制や最低限の試合への出場、アイスショー出演の免除等、スケ連をはじめメディア関係者も、最大限の便宜を図ってくれていた。
それをもし、裏切る結果になったら――。
くしゃりと顔を歪めて戸惑うヴィヴィに、クリスはその肩を両掌で包んで覗き込んでくる。
「いい? ヴィヴィ。代ゼミの “センターリサーチ” は、センター受験者の 約55万人中 40万人のデータを集めてるんだよ。だからその代ゼミが出している合格基準のA判定は、どこの予備校が出している判定よりも正確なんだ」
いつも寡黙で物静かなクリスが、すらすらと並べ立てる事実は、ヴィヴィも知ってはいるが。
「……うん……」
そう頷きはするものの、ヴィヴィの灰色の瞳は小刻みに震えていて、まるでその心中を表しているかのようだった。
「だから、大丈夫。僕が保証する――ヴィヴィはちゃんと、前期試験受けられるって」
「……ほんと……?」
妹を説得し続けるクリスを、ヴィヴィは藁にも縋る様な瞳で見つめる。