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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第104章
「…………、誰……?」
静か過ぎる声でそう妹の相手を確認してくるクリスに、ヴィヴィはにかっとガキっぽい笑みを浮かべた。
「アレックス だよ~ん」
「え……? アレックス……? ……ふぅん」
ヴィヴィの相手が意外だったのか、クリスは納得した様な腑に落ちない様な、複雑な表情で呟いた。
「まあ、うちのクラスは、男子も女子も各10名だから、互いにあぶれる事は無いけど。ほら……、男子が女子を誘うものでしょう? クリスが相手決めないと、女子も相手がなかなか決まらなくて、困っちゃうかもよ?」
「ん……、そうだね……」
ヴィヴィのその正論に、クリスは微かに頷いて見せたが、その10秒後――、
「…………面倒、くさい」
「えぇ~? 駄目だよ。そんな事言っちゃ~」
高校最後の大イベントをそう切り捨ててしまったクリスに、ヴィヴィはその腕をコート越しに両手で握り、窘めた。
「だって、ヴィヴィと行けると、思ってたのに……。凄く、楽しみに、してたのに……。なんか、急に、面倒くさくなった……」
まるで拗ねた様に、そうぼそぼそ言い募るクリスに、
「おやぁ? そんな嬉しい事、言ってくれちゃうの~? 可愛い弟だなぁ、まったく」
クリスの頭を引き寄せてその髪にちゅっと口付けたヴィヴィに、双子の兄はぼそりと突っ込む。
「兄だっての……っ」
「あははっ まあまあ。プロムに行っちゃえば、結局、みんな入り乱れて、踊り狂ちゃう訳でしょう? だから誰と行っても同じ事だと思うけど?」
「う~ん……、それは、ちょっと違う気もするけど……」
妹の楽観的な解釈に、クリスは微かに首を傾げて疑問を呈したが、ヴィヴィはにっこりと微笑んでみせる。
「そ? でもヴィヴィ、楽しみだな~。だってみんなと一緒に過ごせる、最後の行事なんだもん!」
幼稚舎から高等部までずっと一緒で、もしかしたら家族よりも長い間、同じ時を過ごしたかもしれない大切なクラスメイト達。
大人になる従い別れもいつかは訪れる――そんな事はヴィヴィだって分かっていて、けれどどうしても哀しいのだ。
だから最後の最後、ヴィヴィはみんなと笑ってはしゃいで、同じ時を楽しみたい。