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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第104章
ただ、その小論文が問題だった。
未来国家をテーマとした2つの課題文があり、それらについて共通する考え方を纏めた上で、擁護と批判の両方を1000字以内で展開せよ、という出題。
課題文1:脳波や表情から思考を分析し、不適切な思考を抑制する人間性を形成する、未来国家の在り方について
課題文2:遺伝子工学の発達により、人間性の選別や操作を可能にする、未来社会の在り方について
大まかに言うと、法律・人間・科学技術の3点から、統治機構の枠組みを模索する内容だった。
ヴィヴィはBSTで小さな頃から受けているディベートの授業で、論破する力は自然と身に着けてきた。
東大の前期・後期試験が論述方式であることから、その対策もつつがなく熟してきた。
よってその能力を如何なく発揮したヴィヴィは、試験会場の日吉キャンパスでは、鼻歌でも歌いそうな勢いで小論文に取り組んでいた。
(最初に、法の代替手段を模索する事を擁護しておいて~、その後に、その考えを論破する内容。うん、完璧!)
何度も読み直して大満足で帰宅したヴィヴィは、クリスにその内容を聞かせ、
「うん。いいんじゃないかな……」
そう及第点を貰い、英語と世界史の自己採点も合格ラインを越えていて、ヴィヴィはほっと胸を撫で下ろした。
だが、その20分後――。
予備校のHPで発表された模範解答は、ヴィヴィの解答とはかけ離れていた。
合格を確信した高揚した気分のままそれを確認したヴィヴィの顔から、ざっと血の気が引いていき。
涙腺が崩壊したように滂沱の涙を流し始めたヴィヴィに、隣で見守っていたクリスが大慌てした。
「落ち着いて。大丈夫。この課題文だったら、僕だってヴィヴィと同じ主題の解答したって」
「……でも……、でもぉ~~っ!!」
PC画面を指さしてクリスを見つめるヴィヴィに、双子の兄はその後、こんこんと説明と説得を続けてくれた。
ちなみに、同じ慶応を第一志望としているカレンは薬学部志望なので、試験日も試験内容も異なり相談も出来なかった。