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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第104章
細い指の腹で、兄の腹筋の上の薄い皮膚を弄ぶヴィヴィに、
「ヴィクトリアっ あげるから、もっと愛してあげるから……っ だから、ちょっと落ち着け――っ」
「………………っ」
兄の窘める言葉に泣き出してしまったヴィヴィに、匠海は横たえていた上半身を起こし、腰の上のヴィヴィの躰をその胸の中に抱き込んだ。
「馬鹿……。大丈夫だって……。本当に、大丈夫だから」
寝室に移動してから徐々に不安そうな表情に陥っていったヴィヴィに、匠海は何度も「大丈夫」という言葉をヴィヴィに囁いていた。
「ヴィクトリア……。ちょっと落ち着いて考えてごらん? お前が恐れているものは多分2つだ。1つめは受験の為に今シーズンの試合やショーを制限させて貰った、関係者に対する申し訳なさ。2つめはこの1年半、支え続けてくれたクリスに対する罪悪感。……そうだろう?」
兄のその指摘に、泣きじゃくっていたヴィヴィは、しばらくしてこくりと頷く。
「でも、よく考えてごらん。万が一、今年の受験が駄目だったとしても、来年に再受験すればいいだけだろう?」
「……っ そ、そんな事、出来ない……っ」
それでなくても今年、四大陸選手権への出場免除や、取材規制という我が儘までもを聞き入れて貰ったのに、それをまた来年もと言う訳にはいかないだろう。
しかも四大陸選手権は、今まさに開催されている最中で、それがより一層ヴィヴィに焦りを与えていた。
(本当なら、ヴィヴィも出る筈だったのに――っ)
「そうかな? ほら、卒業して、今迄BSTに通っていた時間を受験勉強に充てて、他の時間をスケートに充てればどうだい?」
「………………あっ」
確かに匠海の言う通り、家で受験勉強して、リンクで練習する日々を送っていれば、ショーや試合も出られるようスケジュール調整も容易だろうし、取材や広報活動にも参加出来るかもしれない。
「ほらね? それに「一緒に東大を受ける」って言い出したのは、クリスだろう? クリスはヴィクトリアが今年落ちようが、そんな事で腹を立ててお前を見捨てる様な度量の小さな子じゃないよ。お前だってそれくらい、本当は分かっているんだろう――?」
「……――っ」
図星を刺されたヴィヴィは、ぐっと息を呑んで頷いた。