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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第104章
「クリスもねえ、ずいぶん前にここ出て、カレンを迎えに行ったんだよ~……って、アレックス、聞いてる?」
自分を見下ろして呆けた表情を浮かべるアレックスを、ヴィヴィは下からじいと覗き込んだ。
「ヴィヴィ……っ お前っ めちゃくちゃ可愛いっ もう半端なく、可愛いよ……っ!」
アレックスが息せき切って賞讃したヴィヴィの出で立ちは、繊細なレース刺繍を施したサテンシルクのビスチェと、透けるオーガンジーの下にレース刺繍のシフォンを重ねたスカートが清楚なドレスで。
大きな特徴は、ビスチェの両脇から繊細なチュールがくるりと一周、優しく肩を包み込むシルエット。
その極薄のチュールのおかげで、露出し過ぎないフェミニンな印象を、見ているものに強く与える。
ゆるく巻いた金髪はハーフアップにしてティアラを乗せ、そして胸元と耳元を飾るのは母から譲り受けたばかりの、何物にも変え難い素晴らしいジュエリー。
「馬子にも衣装?」
綺麗にメイクして貰ったのに、いつも通りこてと頭を傾げるヴィヴィに、アレックスは緊張が解けたように笑った。
「あははっ 自分で言うなよ。うん……、本当に似合ってる。可愛いし綺麗だ」
「そう? えへへ、ありがとう~。アレックスも長身だから燕尾服、凄くよく似合ってる~」
「サ、サンキュ……」
ヴィヴィの褒め言葉に、アレックスは照れている様だった。
「それに髪、横を撫で付けてるの、初めて見る。なんか、大人っぽいね~?」
いつもは全体的に金の巻き毛がくりんくりんだが、今日はサイドをワックスで抑えていて、ぐんとスタイリッシュできりりとして見えた。
「あ、ああ。ジーン(兄貴)が面白がって、弄りまくって」
そうボヤキながら両肩を上げて見せたアレックスに、
「あ~、お兄さん! 今日来るの?」
「うん。野暮用済ませてから、冷やかしに来るってさ」
なんだか微笑ましい2人を、静かに見守っていた朝比奈が、時間を確認して口を開く。
「お嬢様。外はまだ寒いですから、こちらをお召しになって下さい」
朝比奈が拡げたのは、ラビットファーの五分袖のボレロで。
「あ、うん。ありがとう」
それに袖を通したヴィヴィは、アレックスが差し出してくれた白手袋の大きな手を握って微笑んだ。