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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第25章
二位三位の選手が呼ばれてそれぞれ表彰台に昇ると、ISUの幹部から挨拶がされ、大会会長からメダルを首に掛けて貰った。
それほど大きくもなく、薄く軽い金メダル。
ヴィヴィはそれを掌に乗せてじっと見つめていた。
忘れようとするのに、嫌でも脳が先ほど投げかけられた言葉をリフレインする。
「Avez-vous acheté votre père une médaille d'or?」
それはその言葉を投げかけた選手の母国語――フランス語だった。双子が通っているBST――インターナショナルスクールでは第一外国語はフランス語なので、ヴィヴィもある程度の会話は熟せる。
「Avez-vous acheté votre père une médaille d'or?」
『お父様に、金メダルを買って貰ったの――?』
篠宮家は世界でも有数の企業。日本でも双子が有名になりだした時、一部のスポーツ新聞が「あの双子は実は大富豪の子息だった!?」と騒ぎ立てていた。篠宮サイドはずっとノーコメントを貫き通していたので、いつの間にか騒ぎは沈静化していたが――。
いくら親や一族が金銭的に潤っていたとしても、それは自分達のスケートには関係ない。確かに遠征費用や日々のリンク代等でのバックアップはして貰ってはいるが、それは企業としてではなく両親にしてもらっているものだ。
ヴィヴィはぎゅっと瞼を瞑ると、必死に頭からその言葉を追い出そうとする。
(他人の言葉に惑わされては駄目……。そう、分かってはいるけれど……)
「Victoria……? Ms. Shinomiya……?」
下からそう名前を呼ばれ、ヴィヴィは咄嗟に現実世界へと引き戻された。瞼を開いた先には気遣わしげな表情を浮かべたアメリカスケート連盟の会長が、花束を手に立っている。
「Sorry……」
ヴィヴィはそう言うと何とか笑顔を浮かべて花束を受け取った。
国歌斉唱で日の丸の旗が一番高いところに掲揚されていくのを、ヴィヴィは全く晴れない気持ちで見つめながら君が代を口ずさんでいた。