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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第26章
スケートアメリカでのエキシビションを終え、双子はその日のうちにコロラドスプリングスからダラス経由――およそ十八時間かけて日本へ帰国した。と言っても東京へ到着したのは翌日の早朝。双子はぐったりして篠宮邸の各々の私室で休んでいた。
泥のように眠って目が覚めたのはお昼前。ヴィヴィは空腹を感じて階下のダイニングへと降りた。料理長が用意しておいてくれた、身体に優しい消化の良さそうな和食を平らげると、ナプキンで口を拭う。そしてその隠れた口元から、ふぅ……と小さく嘆息が吐き出だされた。
「よくお休みなられていたようですが、まだお疲れですか?」
気遣わしげに尋ねてきた朝比奈に、ヴィヴィは小さく頭を振る。
「ううん。もう眠気はないの……クリスは?」
「まだ、お休みのようですね」
「そう……マムは?」
「いつも通り、早朝からレッスンです」
「そっか……」
そう言ってナプキンを手元に置いた時、ダイニングの扉が開かれる音がした。ふとそちらを見ると、匠海の執事――五十嵐が扉を開け匠海が入ってきた。匠海は広いダイニングテーブルの真ん中に座っているヴィヴィを見つけると、笑顔で近づいてくる。
「ヴィヴィ、おかえり」
「お兄ちゃん! た、ただいま」
「まだ寝ていなくて大丈夫なのか?」
「うん。もう十分……あ、アメリカまで応援に来てくれて、ありがとう」
匠海はグランプリシリーズ初戦のスケートアメリカに応援に駆け付けてくれていたが、クリスのSPの直前に到着しヴィヴィのFPを見て急いで日本に引き返したので、試合後に顔を合わすのは今が初めてだった。忙しい中応援に駆け付けてくれた匠海に、ヴィヴィはぺこりと頭を下げる。
「どういたしまして。金メダル、おめでとう」
「ありがとう……」
ヴィヴィは感謝を述べて小さく微笑んだ。
「なんか……あんまり嬉しそうじゃないんだな……?」
「え……そんなことないよ? 嬉しい嬉しい!」
ヴィヴィはそう言って、胸の前でそれぞれの拳を握りしめながら笑う。匠海の前にスープがら始まる軽めのランチが供されるのを見ながら、ヴィヴィは朝比奈が入れてくれた紅茶を手元に引き寄せる。