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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章
「うふふ」
そう夢見心地に微笑むヴィヴィは、両腕を伸ばして兄の逞しい躰に縋り付いた。
こんなに何もかもが思い通りになって、いいのだろうか。
第1志望の東大に、ストレートで合格し。
愛している兄には、身も心も愛され。
そしてもちろん、自分の匠海に対する愛も受け止めて貰えて。
「幸せ過ぎて……、怖い……」
無意識に零れ落ちていた心の声は、匠海の鼓膜を震わせたらしい。
「馬鹿……。幸せなのに、何が怖いって言うんだ?」
耳元で囁かれる兄の言葉に、ヴィヴィは細い鼻を匠海の首筋に擦り付けながら呟く。
「……沢山の幸せが、来ちゃったら……。もう、不幸しか、来ないかも……」
昔の自分なら、きっとこんな臆病な事を思いもしなかった。
何も知らなかった、無邪気な少女だった自分。
けれど、匠海を男として愛していると自覚して以降……、否――兄と心を通わせ恋人となれた今、守るべきものがあるという事は、ヴィヴィを臆病にさせていた。
不安を誤魔化す様に兄の首筋でその香りを胸いっぱいに吸い込めば、血流に乗って躰の隅々まで届けられるその魅惑的な香りに、少しだけ心が和らぐ。
兄の首に回していた両腕が掴まれ、その抱擁を緩めれば、細い肩を大きな掌で包んだ匠海が、至近距離で自分を覗き込んできた。
「俺の愛している女は、俺が全身全霊で幸せにしてやる。そして……」
そこで言葉を区切った匠海は、切なそうに瞳を眇めた。
「そして、いつか不幸になるかもしれないと脅えている時間があるなら、その時間を俺を愛する時間にまわしてくれ」
「………………っ」
まさかの兄の懇願にヴィヴィははっと息を呑み、目の前の匠海の瞳を、揺れる自分の灰色のそれで見つめ返す。
「ヴィクトリア、俺の愛しい子――。お前には両腕で抱えきれない程の幸福と、未来永劫に渡る祝福を――」
そう妹の幸せだけを望んでくれる兄の無欲すぎる言葉に、ヴィヴィの華奢な躰がぶるりと戦慄いた。
「……――っ お兄、ちゃん……っ」
兄の名を呼ぶ細い声は、苦しげに震えていた。
そうだ。
守るべきものがあるということは、自分を強くもしてくれる。