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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章          

「……そう、だな……」

 そうぼそりと呟く匠海は、とても心配そうな表情を浮かべ、自分を見下ろしていた。

「9月以降は、そういう事、一度も無かったでしょう……?」

 葉山で告白してきた匠海に対し、溜め込んでいたものを爆発させてしまったヴィヴィは、その後1ヶ月、兄とは性行為を持たなかったし。

 そして和解し、恋人同士となってからは、そんな事は起こっていない筈だ。

「うん。無かったよ」

「じゃあ、大丈夫だよ」

 きっぱりとそう断言したヴィヴィに対し、匠海は当惑し黙り込んでしまった。

「………………」

「……たぶん、だけど……。ヴィヴィがそうなってる時って、『おにいちゃま』って呼び始めるんでしょう?」

「ああ」

 ヴィヴィには記憶が無いが、そうなった時は翌朝、匠海は決まって「昨日のお前は『おにいちゃま』って甘えてきて可愛かった」的な事を囁いてきていたので、そのことは覚えていた。

「ってことは、お兄ちゃん以外の前では “そう” ならないんだよ。うん、ヴィヴィ他で記憶を無くした事なんて、無いし」

 それは自信を持って言える。

「そう、だな……」

「うん。だから、ヴィヴィが “そう” なった時、お兄ちゃんが止めてくれればいいんじゃないかな?」

「……ああ、そうか」

 ヴィヴィの提案に、匠海はそう返事を寄越しながらも、その表情は心底心配そうで。

「たぶん、大丈夫だよ、もう……。だって、前にそうなった時――ヴィヴィ、精神的に凄く、追い詰められてた……。今はそんな事ありえないし……。ね?」

 初めてそういう状態に陥った時は、兄に与えられ始めた『飴』と『鞭』の落差に、混乱していたし。

 2度目は、兄を心では拒んでいるのに、躰は拒めなくて、苦しくて。

 そして3度目は、兄に『人形』と言われ、混乱を来し自分を見失ってしまっていた。

 もう、ヴィヴィがそんな辛い状況になる事は、無いと信じたい。

「確かに……。じゃあ、分かった。ヴィクトリアが『おにいちゃま』って言い始めたら、俺が責任もって正気に戻すよ」

 何とか納得した様子でそう囁いてくる匠海に、ヴィヴィはこくりと頷く。

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