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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章
「え……? あ、うそ……。ありがとう」
正直、ヴィヴィはうっかり忘れいた――本日がホワイトデーという事を。
もうその小さな頭の中は、明日から始まる試合に向けての意気込みと、若干の不安とで一杯いっぱいだったのだ。
Chateau Mouton Rothschild という焼きごてが押された木箱を受け取ったヴィヴィは、デスクに置かせて貰う。
「開けても、いいの?」
中身がよく分からなくて、そう兄に尋ねれば、匠海は薄手のニットに包まれた両肩を上げながら、掌をこちらに差し出した。
恐るおそる縦長の木箱を開けると、中には渋い金色の布のクッションがあり、その上には1本のワインが鎮座していた。
「赤ワイン……? ……呑んで、いいの?」
まさか兄から飲酒を勧められるとは思っていなかったヴィヴィは、瞳を真ん丸にして匠海を見上げる。
「まさか。 “お酒は20歳になってから” だろう?」
「だよねえ?」
兄の指摘に、ヴィヴィは内心首を傾げながら再度視線を落とす。
褐色のボトルになみなみと充填されている、黒光りする赤ワイン。
そしてエチケット(ラベル)は異様に縦長で、見たこともないオジサンの肖像画が描かれている。
立派な椅子に腰かけ、股の間に両手で杖を支えている、どうってことないオジサン。
そして、その下には――、
「あ……っ!」
ヴィヴィが薄い唇の隙間から、小さな声を上げる。
肖像画の下に刻印されいていた数字、2003――それはヴィヴィの生まれ年だった。
「そう。そのワイン、お前達が産まれた年に造られたワインなんだよ」
匠海のその説明に、ヴィヴィはようやく兄がこれをプレゼントしてくれた理由を悟った。
「この子も、17歳……?」
「そうだね。これは シャトー・ムートン・ロートシルト と言ってね。フランスのボルドー地区で醸造されたものだ。ちょうどこの年は、そこに描かれているナサニエル=ロスチャイルドがワイナリーを取得して150周年を祝い、その肖像画のエチケットが用いられたんだよ」
「このオジサン、オーナーさん、だったんだ……」
世界屈指の大財閥、ロスチャイルド家の一員を “オジサン” 呼ばわりするヴィヴィに、匠海はくっと咽喉の奥で笑った。