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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第26章                           

「そうか。まあ時差十六時間じゃ、戻るまでしんどいよな」

 ヴィヴィは暖炉の上に置かれた時計を見る。コロラドスプリングスでは現在、昨日の夜八時なのだ。視線を匠海へと戻すと、兄は無駄のない所作で目の前のムニエルを口へと運んでいる。

「……今日もリンクへ?」

 ぼうと兄の手元に視線をやっていたヴィヴィは、匠海からの質問にはっと顔を上げた。やはり時差ボケでぼんやりしてしまっているのかもしれない。

「あ……うん。夜だけ行く予定なの」

 ソーサーごとティーカップを持ち上げたヴィヴィは、琥珀色のそれに口を付ける。無糖のそれを飲み下したヴィヴィがテーブルへとカップを戻すと、視線を感じて匠海を見直した。いつの間にかランチを平らげていた匠海が、ヴィヴィを真正面から見つめている。

「じゃあヴィヴィ……俺に付き合ってくれる?」

「…………?」

(付き合う……? どこに……?)

 特に夜まで予定のないヴィヴィは、心の中でそう思いながら不思議そうに匠海を見つめる。

「ちょっとドライブに出よう。外は気持ちのいい秋晴れだよ」

 匠海はそう言って白い歯を見せて微笑んだ。途端に沈みがちだったヴィヴィの心が浮き立つ。

「お兄ちゃんの車……また乗せてくれるの?」

 約半年ぶりのことに、ヴィヴィはテーブルに両手を添えると嬉しそうに上半身を乗り出して聞く。

「ああ。恰好はそのままでいいよ。朝比奈――」

 匠海はヴィヴィの後ろに控えていた朝比奈を呼ぶと、彼の耳元で何かを囁いた。ヴィヴィは朝比奈がダイニングから出ていくのを不思議そうに見つめながら残りの紅茶を飲み干すと、五十嵐がヴィヴィの椅子を引いてくれた。

 匠海と連れ立って玄関へと向かい、用意されていた車に乗り込む。助手席に収まったヴィヴィは、はたと気づいてシートベルトに手を伸ばした。その様子を匠海が面白そうに見ているのに気づき、ヴィヴィは小さく唇を尖らせる。

「もうべーべちゃんじゃないもん!」

「あはは。じゃあ行ってくる。夕方には戻るから」

 匠海の執事の五十嵐にそう言うと、ヴィヴィも助手席から身を乗り出して朝比奈を見る。

「行ってきます」

「いってらっしゃいませ」

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