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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章
「標高が高くなればなるほど、酸欠になり易いのは知ってるね? つまり血中酸素濃度が低下して、身体に様々な変調をきたしてしまう」
柿田の言う事は、日本でも散々口酸っぱく言われてきた事で、双子は素直に「「はい」」と頷く。
「そこでよく陥りがちなのは “こういう環境” に慣れていないからと “オーバーペース” で行動してしまいがちになることだ――ただでさえ薄い血中の酸素を、更に消費してしまう」
トレーナーの指摘通りの状況に、無意識に陥ってしまっていたヴィヴィは、はっとし。
それからはいつも通り――いや、それよりもゆったりとした気分で過ごす様に心掛けた。
「おっと……」
ノートPCを見つめていた焦茶色の瞳がふと上がり、そして次に眼鏡越しの視線が落とされた先は、胸ポケットから取り出した黄金色の懐中時計。
時間を確認した朝比奈は、PCの電源を落とし。
篠宮邸の階下に広がる使用人の居住区の一角――ライブラリーとなっているそこで、大型の液晶テレビのスイッチをオンにした。
彼の読み通り。
4日間の激戦を戦い抜き、世界選手権の頂点に立った彼の主達は、今年もエキシビションの大トリを務めていた。
まず画面に映し出されたのは、クリス。
レゲエシンガーのショーン・キングストンが、2007年に発表した『BEAUTIFUL GIRL』を滑る彼には、国際色豊かな女性ファンから黄色い歓声が上がっている。
クリス本人はめい一杯恰好つけて演じているのだが、やはり彼が3歳の頃から仕えている朝比奈から見れば、その演技は可愛い――その一言に尽きる。
軽快なレゲエサウンドは、『スタンド・バイ・ミー』のベースラインをフューチャーしたメロディーで、初見でも心地良く耳に残る。
けれど、その歌詞はかなり切ないもの。
『一目瞭然さ ガール
キミみたいな人は 誰1人いない
でもキミは 俺の心を混乱させた
だから距離を置くしかないんだ
あぁ 神様……
彼女のせいで 頭がおかしくなりそうだよ』
果たしてこの歌詞の意味を知った上で、彼の演技を見ている人間が、この世に存在するのであろうか。
朝比奈の知る限り、少なくとも自分を含めて2人――いや、3人いるかいないか、だろうか。