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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章
『本当に。そして、双子のお兄さん、クリス君と一緒に、4月からは大学生――しかもあの東京大学に進学が決まっているという、驚きのニュースが我々日本国民を騒然とさせました』
塩原のフリに、荒河が笑う。
「そうなんですよね。実は何度か『どこ受験するの?』と尋ねたんですが、2人とも絶対に教えてくれなくて(笑) どうやらヴィクトリア選手が『落ちたのバレるの、恥ずかしい』とずっとクリス選手に口止めしていたらしいですよ」
そう面白がる荒河に、他の2人の笑い声が続く。
『そんなお茶目な篠宮選手、リンクの上で黒い燕尾服を脱ぎ、白のノースリーブ姿へと早変わり。ああ、もうノリノリで歌いながら滑っていますね』
キザな男になり切ってニヒルな笑みを浮かべながら滑るヴィヴィに、観客のボルテージも上がって行く。
そしてシルクハットを器用に操りながらフィニッシュしたヴィヴィには、惜しみない拍手が贈られた。
『初優勝から3年が経ちました。練習大好きの頑張り屋さんの少女は、本当に着実な道を歩み続け、そしてまた新たな歴史を刻む瞬間を、我々に見せてくれました』
塩原のその言葉に、八木沼が続く。
「はい。SPでは本当に満足のいく演技が出来、そして高地で息が切れてしまう厳しい条件の中、FPでは手堅く纏め。この安定感のまま来期も更に飛躍して欲しいですね」
そして誰もいなくなった真っ暗なリンクを降り、リンクサイドでアンコールのコールを受けるヴィヴィ。
『さあ、アンコールがあります。最後の演技者、そして今大会の女子シングルの金メダリスト。場内の手拍子が、ボリュームを上げています』
「さあ、再び登場して貰いましょう――ヴィクトリア 篠宮!」
英語のアナウンスに呼ばれ、ヴィヴィはまたリンクへと駆けて行く。
『まさしくこの大会の主役の1人。かけられたのは完璧な演技を見せてくれた、SPのステップです』
SP『喜びの島』のピアノ演奏に乗せ、ヴィヴィがゆったりと、しかし緊張感を持ったステップを披露していく。
その音源は言わずもがな、兄の匠海のものだ。