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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章
『3度の世界タイトルを手にした17歳――篠宮 ヴィクトリアが、まさに大トリに相応しい演技を見せてくれました』
塩原の言葉と共に、フィニッシュポーズをとったヴィヴィの姿が、暗転の中へと消えた。
大型液晶テレビの電源を落とした朝比奈の隣、いつの間にか来ていたらしい五十嵐が、こちらへコーヒーの入ったカップを勧めてきた。
「あ、ありがとうございます」
礼を言って受け取った朝比奈は、銀縁眼鏡を湯気に曇らせながら、暖かなそれを口に含んだ。
「高地で低酸素状態の症状が出ないか、心配だったね」
五十嵐のその言葉に、朝比奈は頷く。
「ええ。しかし、お2人なら大丈夫と信じておりました」
「今日は、屋敷に戻られないのだったかな?」
「はい。羽田に到着後、各テレビ局に引っ張りだこだそうでして。お戻りになられるのは明日の夜です」
特に双子は、受験中は取材規制をしていたし、そして進学先が東大という事もあり、今は猫も杓子も “尋常じゃない篠宮兄妹” を取り上げ、注目している。
「そうか。じゃあ、また明日には、篠宮邸も賑やかになるな――」
そうぼそりと呟いた五十嵐に、朝比奈は一瞬きょとんとし、すぐに瞳を細めた。
この1週間。
双子のいないこの屋敷は、活気を失ったかのように静まり返っており、使用人達もやはり気が引き締まらなかったらしい。
「ええ。すぐにいつもの篠宮邸に戻ります」
そう囁いた朝比奈は、残りのコーヒーを飲み干した。
そして主達宛にまたどっさりと届くであろう、プレゼントやファンレターの受け入れ準備をすべく、席を立ったのであった。
3月22日(月)。
1週間に渡る世界選手権を終えた双子は、互いに一番綺麗な色のメダルを携え、帰途に就いた。
22時間のフライトを経て、(時差の関係で)翌日――24日(火)の16:35に成田空港に到着し。
その足で向かったのは、世界選手権の放映権を持つテレビ局。
夕方の情報番組と、夜のニュース番組に出演する為だ。
もちろん世界選手権についての質問も多かったのだが、それと同じくらい根掘り葉掘り尋ねられたのは、やはり1年半に渡る受験戦争についてで。