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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章
それでなくても、自分の外見は “外人” だし。
今でも自分の “アンチ” がいる事は確かで。
ヴィヴィは直接目を通していないが、自分宛てに届く心無いメールや手紙がある事を知っている。
インターネットの掲示板では、自分を嫌う人間達が書き込むスレッドなるものが乱立しているらしい。
今回の東大合格の件だってそうだ――「調子に乗って」と捉える人間だって必ずいる。
長い睫毛が心許無く震え、その視線が気分の落ち込みと共にゆっくりと落ちていく。
こんな後ろ向きな考えを持つとは、自分の思っている以上に、長期間の試合の影響で疲れているのだろうか。
「………………」
ヴィヴィは頭をプルプルと振って、ごちゃごちゃになってしまった頭の中の物を放り出す様つとめ。
ばしゃりと大きな水音を立てながら、湯から上がった。
「ローズマリー、パッションフラワー、リンデンフラワーのブレンドは、如何でしょう?」
バスルームから出て来たヴィヴィの様子を見て、朝比奈が提案してきたのはそれらのハーブだった。
「すっきり、するかな?」
白革のソファーに腰掛けたヴィヴィがそう尋ねれば、執事は頷く。
「ええ。特にローズマリーのシャープな香りは、気分を変えてくれますよ」
朝比奈に全てを任せたヴィヴィは、ぼ~としながら目の前で入れられるハーブティーを見ていた。
「どうぞ」
透明なティーカップに注いでくれた朝比奈にそう促され、ヴィヴィは礼を言ってそれを手に取り香りを吸い込んだ。
まず感じたのは、シャープで刺激的なスパイスの香り――これがきっと、ローズマリーのもの。
そして続くのは、パッションフラワーの干し草の香りと、リンデンフラワーの上品な甘い香り。
カップを両手で包みこみ、その香りを心行くまで味わえば、凝り固まっていた思考が、ゆっくりと端から解れていく感じがする。
そして口に含むと、緑茶に近いほっとする味の中に、微かに感じるローズマリーのぴりりとする刺激が心地良い。
「はぁ…………」
微かにそう発しながら深く息を吐き出した主に、朝比奈はヴィヴィの与り知らぬところで瞳を細めていた。
飛び抜けて美味しいとか、そういうのではない。
ただ、ピッタリなのだ――今の自分に。