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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章          

 もう一度、深くその香りを胸いっぱいに吸い込んだヴィヴィは、それを吐き出した頃には大分リラックスした表情になっていた。

「……ありがとう……」

 心の底からの感謝の気持ちを表わしたヴィヴィに、朝比奈が静かに目礼する。

「どういたしまして。ただ、若干心配な事がございます」

「え……?」

「このローズマリー、古代ギリシャ ローマ時代から “若返りの妙薬” として伝えられておりまして……。お嬢様がこれ以上若返られましたら、それはそれで問題かと」

 ワザとらしく眉を顰めて嘆息する執事に、ヴィヴィは咄嗟に喚く。

「きぃ~~っ!? なにようっ ヴィヴィ、もうすぐ18歳だもんっ ✿女子大生サマ✿だもんっ ちょっとくらい若返ったって、何の問題もないもんね!」

 可愛らしく頬を膨らませて睨み上げてくるヴィヴィに、朝比奈は銀縁眼鏡の奥の瞳を細めた。

「ええ。それくらいお元気な方が、お嬢様らしいですよ。今日はどうぞお早めにお休み下さいね」

「…………、う、ん……。あ、ありがとう……」

 まさかそんな返事が返ってくるとは思っていなかったヴィヴィは、一瞬きょとんとし。

 そして、主の元気の無さを気遣って、発せられた言葉という事を瞬時に悟り、そう礼を述べたのだった。

 ティーセットを片付けて下がった朝比奈と入れ替わる様に、匠海がノックと共に顔をみせた。

「お帰りなさい、お兄ちゃん……っ」

 ヴィヴィはソファーから腰を上げると、すぐにその傍に駆け寄り飛び付いた。

「お前こそ。おかえり、ヴィクトリア。それに、色々とお疲れ様」

 まだスーツ姿の匠海に気になってちらりと時間を確認すれば、もう22時だった。

 10日ぶりの兄の胸の中は、本当に気持ち良くて。

 スーツ越しにでも解る、鍛え上げられた広い胸は安堵を。

 抱き寄せてくれる長い腕は、薄いナイトウェア越しにその暖かさを与えてくれる。

 そして、顔を埋めたシャツから香り立つのは、兄だけの特別な香り。

 甘えてそこに細い鼻を擦り付ければ、匠海はヴィヴィが一番落ち着く後頭部を、その大きな掌で優しく撫で上げてくれた。

「……会いたかった……」

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