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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章          

「ふふ……、お兄ちゃんの手、大好き……」

 そうリラックスした声で囁いたヴィヴィに、匠海は「そう?」と返しながらも続けてくれて。

「うん。大きくて、暖かくて、気持ち良くて……。ヴィヴィ、大好き」

 最後、金色の髪を横に掻き分け、頭の付け根から肩の方向へと辿る掌は、最初に押された鎖骨の方へと向かって行った。

「これ、リンパマッサージ?」

 どうやら終わりらしいのでそう尋ねてみたヴィヴィに、匠海の声が降ってくる。

「うん。見よう見まねだけれどね」

「それでも嬉しい。ありがとう、気持ち良かった」

 本当に、とても嬉しかった。

 マッサージの知識などある筈のない兄が、忙しい身にも関わらず、自分の為にその方法を調べてくれて。

 そして、覚えて優しく施してくれた。

 その気持ちだけでも本当にヴィヴィは幸せで、自分が兄に愛されているのだと心底感じられて。

 そして、小さな頃から兄の掌が大好きなヴィヴィは、例えマッサージの知識が無くてたださすられているだけでも、十分気持ち良くて存分に癒されるのだ。

「ついでに、肩も揉んであげようね」

 そう囁いてくる匠海に、ヴィヴィは何故かびくりと大きく反応した。

「えっ!? い、いいですっ」

 実はヴィヴィは、肩揉みされるのが苦手だった。

 部分的に指圧されるのは大丈夫なのだが、掌全体で肩を挟まれて揉まれると、何だか首の皮膚が突っ張られるような感覚があり、気道が圧迫されて息苦しく感じるのだ。

 小さな頃からそうなので、匠海だって知っている筈なのだが。

「ふ、本当に苦手なんだな?」

「ん~~。ヴィヴィ、もしかしたら、前世で悪い人だったのかも」

 ヴィヴィは俯せたまま、微かに首を捻る。

「は?」

「うん、きっと前世がとんでもない悪人で~。それで、誰かに首絞め――」

 そこまで口にしたヴィヴィは、はっと我に返り、言葉を止めた。

「ん? お前の前世が悪人で、首絞めて殺されたから、現世のヴィクトリアも首回り苦手だって?」

 すらすらと淀みなくそう続ける匠海に、ヴィヴィは何とも言えなくなって。

「…………、ご、ごめん、なさ……っ そ、そういう、つもり、じゃ……」

 さぁと血の気が引いていく頭でそう謝ったヴィヴィに、匠海の優しい声が被さる。

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