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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章
なんだろう、その活動内容は……と思ったヴィヴィは、恐るおそる薄い唇を開いた。
「……楽しいんですか?」
「美味しいです」
「……はは……」
乾いた笑いを零すヴィヴィに、部員は中指の腹で眼鏡を押し上げて続ける。
「夏休みには、合宿の遠征として香川に行きます。さ。ここにお名前とクラスをご記入下さい」
ヴィヴィの目の前に紙切れを置いた部員は、シャツの胸ポケットからボールペンを取出し、ヴィヴィに手渡してくる。
「え?」
「ささ、遠慮なく」
口調は静かなのに有無を言わさぬ感じに、ヴィヴィが「どうしよう……」と思い始めたその時、
「うちの妹は、うどん部には入れません……。ごめんなさい……」
そう発したクリスに両肩を掴んでパイプ椅子から立たされ、ヴィヴィは有無を言わさずブースから連れ出された。
「なに、やってるの……?」
以前食欲が無かったヴィヴィの目の前で、料理長がうどんを作ってくれた事があって、ただ単に興味が湧いただけだったのだが。
「ん~~、よく分かんない」
クリスの質問にそう答え、首を傾げたヴィヴィなのだった。
4月7日(水)から始まった国別対抗戦は、初日はレセプションで、各国の選手達と交流を図り。
翌日~10日(土)の3日間に渡り、新横浜スケートアリーナで試合が開催された。
どの選手にとっても、今シーズン最後のSPとFPの披露の場となる。
それはヴィヴィも同じで。
今シーズン、様々な感情と闘いながら滑り込んできた、匠海のピアノ演奏による SP『喜びの島』。
時には「音源、変えたい」と愚痴を零し、その全てを重荷に感じたり。
ある時は、滑走中に起こったアクシデントで頭が真っ白になった自分を、その音色が助けてくれた。
そして女子シングルSPが行われる今日は、日本チームの応援席に、このプログラムを振付けてくれたマリーナ・ズエワも、アイスダンス渋谷兄妹のコーチとして座っていた。
リンクサイド、自分の滑走順を待つヴィヴィは、薄紫色のシンプルな衣装の上から、ペンダントトップの硬さを確かめ。
そして日本チームのみんなとお揃いの金の指輪をした手を、もう一方の手できゅっと握る。