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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章
この会場に、匠海も来てくれる事になっていた。
木曜日の夜なんて忙しいだろうに、
「どうしても、ヴィクトリアの最後の演技、この目に焼き付けたいからね」
そんな泣いてしまいそうになる程、嬉しい事を言ってくれた兄。
自分に幸せを感じさせてくれる貴方。
時には振り回されて、心乱される事もあるけれど、
それでもいつも最後には、
両腕では抱えきれない程の喜びを与えてくれる、大切な恋人。
「……頑張る、ぞ……っ」
そう小さく呟いたヴィヴィは、「ふうぅ~」と大きく息を吐き出すと、自分の為に開けられたリンクのゲートから、勢いよく飛び出して行ったのだった。
「素顔は元気いっぱいの17歳。今年から大学への進学も決まり、来シーズンも更に心身ともに充実したシーズンにしたいと張り切っています。卓越した技術と表現力で、向かうところ敵なし。頼もしい日本のエースです。優勝国 女子シングル――篠宮 ヴィクトリア!」
4月11日(日)、国別対抗戦 最終日 エキシビション。
仰々しい紹介に苦笑しながらも、ヴィヴィは両手を振りながら、一筋のスポットライトに導かれるようにリンクへと入った。
細身で漆黒の燕尾服、ウィングカラーのシャツに白の蝶ネクタイ、そして白のグローブ――完璧な紳士の出で立ちだ。
小粋にシルクハットのツバを摘まみながら左向きに俯いたヴィヴィが、3方向から照らされたスポットライトに浮かび上がる。
4分の5拍子を刻むスネアドラムに被さる、ピアノの和音。
女性JAZZシンガーのハミングが響き始める中、ハットを撮みながら後ろに滑り出したヴィヴィは、唇に弧を描きながら、気だるげに左右に肩を揺らす。
重なっていく、テナーサックスの艶やかな音色。
とにかく男性的に、セクシーに。
それを心掛けて腰を落とし大股にブレードを運び、黒いパンツに包まれた長い脚を見せつけるようにふわりと蹴り上げる。
『立ち止まって
少し休んだらどうですか?
僕と一緒に
Just “TAKE FIVE”
――ほんの5分ほど』
長い腕を腰に当て、スプリットイーグルを挟んでからの、3回転ルッツ。
『せわしい時間を止めて
僕という存在に 気付いてくださいよ』