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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章          

 匠海に抱っこされ、夢見心地で兄の寝室に向かおうとしたヴィヴィだったが、ふと我に返って自分の書斎で降ろして貰った。

 不思議そうな兄の目の前で、デスクの引き出しを開けたヴィヴィは、そこからオレンジ色の紙袋を取り出し、隣に立つ匠海に差し出した。

「あの、これ……」

「うん……? あ……、もしかして?」

 妹の言わんとしている事に気付いたらしい匠海に、ヴィヴィはこくりと頷く。

「ん……。バ、バースデープレゼントっ」

 5月5日、こどもの日。

 その日はとても大切な日――匠海の24回目の誕生日だった。

「……お前、振り付けで、忙しかっただろうに……」

 端正な顔に驚きの表情を浮かべる兄に、ヴィヴィは何故か申し訳無さそうに眉尻を下げる。

「あ、うん……。だから、ごめんなさい。帰りに空港の免税店で買ったの……」

 デトロイト空港では気に入った物が無かったヴィヴィは、経由地のシカゴ・オヘア空港で、やっとプレゼントを探し当てたのだ。

「どうして謝る? そうか、ありがとう。開けてもいいか?」

「う、うん」

 大好きな人が目の前で、自分の贈った物を確かめてくれる。

 それはとても嬉しくて、その端正な顔に喜びや驚きの表情が浮かび上がることを期待してしまう。

 が、それは必ずしもそうなるものではないと、自分は知っている。

 昨年――17歳の誕生日。

 自分は兄から送られたダイヤモンド――仮眠する前に装着したばかりのこのピアスに、何の感慨も持てなかったから。

 オレンジの箱に施された茶色のリボンを解いた兄は、蓋を開いてその中の薄紙を解き。

「お……っ これは、嬉しいな」

 そう明るい声を上げ、箱の中身を見つめる兄の瞳が心底嬉しそうなもので、ヴィヴィは胸に両手を添え、ほっと息を吐き出した。

 箱から中身を取り出した匠海は、嬉々としてそれを首から掛けてしまった。

「どう? 似合うか?」

 グレーのスーツにも似合うそれに、ヴィヴィはこくりと頷く。

「うん、とっても。でも、その……、気に入らなかったら、無理して使わないでね?」

「え? 物凄く気に入ったよ。ヴィクトリアがくれた、IDケース」

 指先でカードケースを摘まんだ匠海は、裏表を返してその黒革のケースをしげしげ見つめていた。

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