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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章          

 長方形の角に穴が開いており、そこに黒皮の細いストラップが繋げてある、シンプルなそれ。

「えっと……、お兄ちゃん、会社で社員証……? 首から下げてなくて。ポケットに入れてたから……。落としたら怖いなって……」

「……よく見てたね」

 驚いた表情の匠海に、ヴィヴィは少しの後ろめたさを覚え、兄の瞳からその逞しい胸へと視線を逸らす。

「ん……。プレジデントフロアのキーも、内ポケットに入れてたから……」

 そして、その姿に「大人っぽくて素敵♡」と、ときめいてしまったから、覚えていたのだ。

「明日から使うよ。本当にありがとう。それに――」

「え?」

「お揃いだな? お前のネックレスと」

「……うんっ」

 ヴィヴィが数あるブランドの中から選んだそこは、匠海がくれた馬蹄型のネックレスと同じもの。

 元々が馬具工房から発展したそのブティックは、馬術を嗜んでいた兄は気に入っているみたいだった。

「大切に使わせて貰うよ」

 本当に嬉しそうにそう言いながら、首から下げていたそれを箱に大事そうに戻した匠海に、ヴィヴィはやっと寛いだ微笑みを浮かべた。

「気に入ってくれて、良かった……。お兄ちゃん、24歳のお誕生日、おめでとう」

「ありがとう。でも本当に欲しいのは、お前だけだよ?」

 そう囁いてきた匠海の瞳には、切な気な光が宿っていて。

「……ん……」

 自分の頬に這わされる大きな掌に、ヴィヴィの鼓動は不正な脈を刻み始める。

(ヴィヴィも……。ヴィヴィも、そうだよ……?)

「ヴィクトリア、覚えている? クリスマスの約束――」

 20cmの身長差から覗き込んでくる匠海に、ヴィヴィは少し困った風に、潤み始めた瞳を細めた。



『ああ、なんて可愛いんだヴィクトリアっ 後、4回はこのまま抱いてあげるよ。最後はもちろん、生まれたままのお前をね』

 12月22日――兄妹で過ごしたクリスマス。

 兄からプレゼントされた白のベビードールを纏ったヴィヴィに、匠海は興奮してそう宣言してきた。

 これから、5回も……? 死ぬ……、と答えたヴィヴィに、兄が提示した譲歩案がこれ。

『これ、俺の誕生日にまた着てくれるなら、次で最後にしてあげよう』

『…………着ます☠』



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