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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章          

 結局流れでそう答えてしまった事も、ヴィヴィはもちろん覚えていたが――。

「……お、覚えてないっ」

 焦った様に白を切る妹に、匠海の彫りの深い顔に、黒い影が深く浮かび上がる。

「ほほう……。東大生のくせに、なんて “物覚えの悪い子” なんだろうね。じゃあ、思い出させてあげようか」

 匠海はプレゼントの紙袋を腕から下げると、その腕で妹の華奢過ぎる躰をひょいと抱え上げた。

「きゃっ ……やぁ……、降ろして?」

 咄嗟に兄の首に両腕を巻き付けたヴィヴィはそう催促したが、その声音はまるで正反対の甘ったるいもの。

 そんな妹に苦笑した匠海は、書斎を出てリビングを通り、自分の寝室へとその躰を運び込み。

 更に奥にあるウォーキングクローゼットの前で、腕の中のヴィヴィの唇にそっと自分の形の良いそれを押し付けた。

「ダメ。ほら、着替えておいで。また俺に、天使みたいに愛らしいヴィクトリア、見せて?」

「……もう、本当に、最後だよ……?」

 兄のおねだりがなんだか可愛らしくて、ヴィヴィはしぶしぶそう口にした。

「ああ。俺、軽くシャワー浴びてくるから」

 満足そうにそう答えた匠海は、妹をクローゼットの入り口に降ろすと、その金色の頭をポンと撫でて寝室を出て行った。

「…………、まったく、困った “お兄ちゃん” だ……」

 そう呟きながら薄い肩を竦ませたヴィヴィは、クローゼットへと入っていく。

 奥のオットマンの上に置かれていたのは、前回と同じ白のベビードール。

 ナイトウェアを脱ぎ捨てたヴィヴィは、何とも言えない気持ちでスケスケのそれを身に着ける。

 決して、それを身に着けるのが、嫌で嫌でしょうがない訳では無い。

 ヴィヴィの中でのベビードールのイメージは、あの辛い記憶から、聖夜の愛おしい記憶へと上書きされているから。

 だから、ヴィヴィが渋る理由は――ただ、恥ずかしいだけ。

(この紐パンには、慣れないし……。ううん、慣れたくもないし……)

 横線1本に縦線2本、の卑猥なそれも、ヴィヴィはしょうがなく身に着けた。

 最後の仕上げと白い花冠を視線で探したヴィヴィだったが、今日は無く。

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