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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第105章          

 その代りか、置かれていたのは黒いスウェード張りのジュエリーケースに鎮座する、2本のカチューシャ。

 金色の細い金属の斜め上に、白と黒の花を模した平らな石の様な飾りが着いた、シンプルなものだった。

 ヴィヴィは姿見の前に移動し、それを着けてみる。

 金色の髪にさほど主張しすぎない、金色のカチューシャと2cm大の2つの花は、繊細で洗練された印象を強く与えた。

 そしてヴィヴィの視線は、鏡の中の自分の両耳に落ちる。

 耳たぶで眩く輝くのは、兄から贈られた17歳の誕生日プレゼント。

 実は自分から着けて兄の前に立つのは、今回が初めてで。

 昨年の8月14日――父の生家のロンドンに里帰りしていた、その最終日。

 眠っていたヴィヴィに匠海が勝手に装着し、その躰を何度も何度も貪っていたのは、今ではほろ苦いけれど大切な記憶だ。

(お兄ちゃんは……、プレゼントが、上手……)

 ヴィヴィは指先でそっと一粒ダイヤのピアスに触れながら、そう思う。

 胸元で輝く繊細な馬蹄型のネックレスは、貰った時は「ヴィヴィには大人っぽ過ぎるんじゃ?」と咄嗟に思ったが、大学生となった今はしっくりときて、この先どれだけ年を取ろうが、違和感なく着けられるモチーフで。

 2ヶ月前のホワイトデーに貰った、生まれ年のヴィンテージ・ワインも、2年後が待ち遠しくてしょうがなくなる、時間を掛けて喜びを与え続けてくれる、素敵なもの。

 そして、このダイヤのピアス。

 ラウンドブリリアンカットのシンプルさは、飽きの来ない輝きで、どんな服にも合わせられるし、幾つになっても変わらず身に着けられるもの。

 そう、忘れてはいけない、庭の薔薇も。

 彼女達はこれから毎年、素敵な立姿と淡い芳香で、自分達を豊かな気分にしてくれるだろう。

 本当に、匠海はプレゼントを選ぶ能力に長けていると思う。

 そしてその全てに共通するのが、時間の概念。

 兄の与えてくれる全てが「これからもずっと、命尽きるまで共に在ろう」――そう、言葉でなく存在で語り掛けて来てくれるものばかり。

(幸せ、過ぎて……。やっぱり、怖い、の……)

 先程まで幸福に輝いていた灰色の瞳が、徐々にオドオドしたものに変化していく。

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