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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第26章
「ここの馬達は、殆ど名前に『東』の字が付くんだ。東桑(とうそう)に東小町(あずまこまち)、東雪月花(あずませつげっか)、東冠(とうかん)、東翔(とうしょう)東遊(とうゆう)……ってね」
「あ、大学名から?」
「そう。それで、今日乗せてもらうのはこの子――東蓮華(あずまれんげ)。やあ、元気だったか?」
匠海は一番手前にいた馬の長い鼻面を撫でてやる。途端に気持ちよさそうに東蓮華が大きな目を細める。
「わあ……なんか、可愛い顔の子だね。女の子?」
「ああ。少し毛が長いんだ。触ってごらん」
匠海に促され、ヴィヴィは恐る恐る腕を伸ばす。確かに匠海の言うとおり、ふわふわの毛が気持ちいい。きらきらと輝く瞳が自分へと注がれ、じっと見つめられるとその愛らしさに知らず知らずヴィヴィの緊張もほぐれる。
「可愛い……よろしくね、東蓮華」
匠海が手綱をリードして馬場へと東蓮華を連れて行く。馬場は広くて遠くに二人乗馬している人影が見えるが、どんな人物かまでは判別がつかなかった。
「さて。ヴィヴィ、騎乗の仕方、覚えてる?」
踏み台を手に持った匠海が、ヴィヴィに尋ねてくる。
「えっと……右から乗るんだっけ?」
「ハズレ。左から。そっか……最後に馬に乗せたのは俺が高校に上がった頃だったか……六年前じゃさすがに覚えてないな」
そう言った匠海は踏み台を馬の左側に設置し、ヴィヴィに向き直った。そして少し屈むとヴィヴィの顔を覗きこむ。とたんに匠海の灰色の瞳と視線がかち合い、ヴィヴィはどきりとする。
(な……に……?)
匠海はヴィヴィの顎に指先を添えるとくいと上を向かせ、ヴィヴィの顎の下でヘルメットの紐の長さを調節してきちんと装着させた。
(あ……ヘルメットか……)
よからぬ想像をして胸をときめかせてしまった自分を諌めながら、ヴィヴィは匠海に言われたとおりに騎乗を始める。
「左手で手綱と鬣(たてがみ)一緒に掴んで……はい、左足を上げて鐙(あぶみ)に掛けて、右手を鞍(くら)に掛けて……右足で踏みきり両手で体を引っ張り上げて、左足で鐙に立って右足を大きく上げ回して鞍に跨って、右足も鐙に掛ける……そう、その通り」