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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第26章                           

 さすがそこはトップアスリート。ひらりと軽く馬上の人になったヴィヴィにいつの間にか傍に来ていた高原と木川が、

「おお~!」

「さすが、違いますね……」

と感想を漏らす。

 ヴィヴィは恥ずかしくて首を竦めた。が、それも一瞬で、直ぐにそんな恥ずかしさも吹っ飛ぶような馬上からの景色に息を呑む。

「…………凄い」

 先ほどまでと明らかに違う開けた視界。そして怖さは感じなかった。視線をまっすぐ前へと移すと、つい先刻まで見ていた馬場の景色がまるで違う世界のようにキラキラと輝いて見える。

(なんでだろ……ただ高さが変わっただけなのに……)

「ヴィヴィ。視線は馬の両耳の間10cmほど上に円があるとして、その円を通して見るようにね」

 ついつい遠くを見てしまっていたヴィヴィに、匠海がアドバイスを投げかける。

「姿勢は真っ直ぐ。体の真ん中に芯が通っているように意識して」

 言われた通り、ピシッと姿勢を正すヴィヴィ。

「歩かせるよ。左右のふくらはぎの上部で馬のお腹をぐっと圧迫してみて」

 足をハの字にして東蓮華の大きなお腹を押してやると、ゆっくりと歩き出した。

「わわっ!!」

「ちゃんと手綱持ってね」

「け、けっこう揺れるんだね……」

 ヴィヴィはぐらぐらと揺れる鞍の上で、必死にバランスをとる。

「そうだな。8の字型に揺れるけれど、『真っ直ぐ』を心掛けていたら、絶対に落馬しないから」

 ヴィヴィの斜め下で東蓮華の手綱を軽く掴んで付き添ってくれる匠海の声に、ヴィヴィは「真っ直ぐ、真っ直ぐ」と口の中で呟きながらコツを掴もうと頑張ってみる。

 二分ほどそうしていると、ヴィヴィはすぐに揺れに慣れた。少し余裕が出てきて周りにも視線をやる。

(うわぁ……)

 気持ちのいい揺れに身を任せて臨む景色は格別だった。頬を撫ぜていく秋の少し生ぬるい風も気持ちいい。内股に感じる東蓮華の体温も心地よい。

 深呼吸をしてみると、乾草の香りと深い緑の香りがした。

「………………」

 ふっと心が軽くなった気がした。

 心を曇らせていた表彰式で浴びせられた心無い言葉や、周りの評価なんか、あまりにもちっぽけなことのように感じる。

(そうだ……自分は自分。ちゃんと自分がしっかりしていれば、周りに流されたりしない――)

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