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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章
「あ……、これ……」
「うん……」
互いに顔を見合す双子に、部員のみんなが誇らしげに笑う。
「ふっふっふっ スケート部特製、 “ひよこさん” タオル、だよ」
ひよこさん――それは、2010年度の卒業生が在学中に考案した、東大のゆるキャラ。
東京銘菓 “ひよこ饅頭” の様な単純な見た目は可愛らしく、絵が壊滅的に下手くそなヴィヴィでも、描ける筈だ――たぶん。
いつもは角帽をかぶっている “ひよこさん” が、スケート靴を履いた絵が描かれたスポーツタオルには、UT Figure Skating Club(東京大学フィギュアスケート部)と明記されていた。
「可愛い~♡ え、本当に貰っていいんですか?」
歓喜の声を上げるヴィヴィに、皆が頷く。
「もちろん! それに、双子が入部してくれたお陰で、濱田総長が特別予算組んでくれてね。ウィンドブレーカーも作る事になったんだよ~っ」
「……そ、それは、また……。大学名を宣伝したくて、仕方ない感じで……?」
濱田総長(東大一のお偉いさん)の商魂魂をここでも見た気がして、ヴィヴィが恐るおそるそう問えば、
「ははっ もう、総長の性格、熟知してるんだ? まあ、良いではないか。作ってくれるっていうんだから、作って貰えばね?」
蟹江主将のその笑い飛ばす言葉に、双子は肩を竦めて頷いたのだった。
「「……カッコいいの、期待してます……」」
その翌日――5月7日(金)。
4時限目の政治Ⅰの講義が始まるまでの休憩中。
25名定員の小講義室の中、ヴィヴィは隣から物凄い視線を感じ、振り向いた。
「ど、どうしたの、マドカ?」
カラコンの入った瞳が、熱心にヴィヴィの金色の頭を見つめている。
「いや、今日ず~~っと、気になってたんだけどさ……。これ……、アルハンブラ、じゃない?」
「へ……? アルハンブラ……宮殿?」
ヴィヴィは大きな瞳をパチクリさせながら、スペインにある歴史的イスラム建築の名を挙げる。
「違うっ そのカチューシャ、ちょっと見せて?」
「え……? あ、うん」
やっと円の指しているものが何なのか悟ったヴィヴィは、すぐに重ね付していたカチューシャを外して渡した。