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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第26章
乗馬のおかげか、いつもと違う環境に身を置いたおかげか自然にそう思えることが出来、ヴィヴィの表情がふっと綻ぶ。途端に心の中に嬉しさが込み上げてきた。
あの日、味わうことができなかった――シニア国際大会での初優勝という、頑張った自分へのご褒美。
「……やっと笑顔になったな」
下から掛けられた小さな声に、ヴィヴィははっと我に返り匠海を見下ろす。
「お兄ちゃん……?」
ヴィヴィの声掛けに答えず、匠海は真正面を見てただ黙々と東蓮華に付き添っていた。
十分ほど常歩(なみあし)をさせて貰ったヴィヴィは、匠海の指示通りに馬から降りた。何故だろう。地上に降りた途端、まるで今までなかった重力を感じるような気がした。
「え……? もう終わりですか?」
ずっと見守ってくれていたらしい木川が匠海に尋ねる。
「ああ。一カ月後に試合が控えているからね……万が一、落馬でもさせたら大変……」
「あ~……それは、マムに殺されるね……」
匠海のもっともな意見に、本当はまだ乗馬を楽しみたいヴィヴィも納得して同調する。
「そうですか。じゃあ今度はスケートのオフシーズンに来てくださいね」
「はい。また来たいです」
木川の誘いに、ヴィヴィは笑顔で答えた。
「じゃあ、記念に東蓮華と写真を撮ってあげよう」
高原はそう言うと、スマートフォンをかざす。
「ちょっと待て。その写真、何に使うつもりだ?」
匠海が疑いのまなざしで高原を見やる。
「え? 部のHPに載せるだけだけど? 出来れば、ヴィクトリアちゃんのHPにも載せてくれると嬉しいけれどね」
高原は悪気なさそうにそう答える。
「あ! 載せます」
「大丈夫? シーズン中に乗馬してたなんて知れたら、問題にならない?」と匠海。
「マネージャーに聞いてみるけれど、馬と一緒に写ってるだけだったら大丈夫だと思う」
ヴィヴィは少し考えた後、そう言って自分のスマートフォンでも高原に写真を撮ってもらった。
ヴィヴィと東蓮華の2ショットと、匠海との3ショット、三脚を使って他の部員も加わった集合写真。
「ありがとうございます」
ヴィヴィが皆にぺこりと頭を下げる。
「こちらこそありがとう。部の家宝にしよう~!」
高原がそう言ってスマートフォンを大事そうにしまう。