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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章               

「ほら……、こうきっちり組んでると、可愛過ぎるでしょう?」

 顎の前で夢見る乙女ちっくに “お祈りのポーズ” をしてみせるジュリアンに、ヴィヴィは「ぶっっ」と吹き出す。

「た、確かにそうですね……」

「なんか、こうすると、蝶みたいにも見えるし……。あ、じゃあ、ジャンプの助走は、蝶っぽく……」

 説明しながら滑り出したジュリアンは、バックに滑りながら両腕を大きく開き、肘から先だけを蝶の羽ばたきの様にはためかせる。

 そしてくるりと1回転を飛ぶと、着氷後のフリーレッグを後ろへ真っ直ぐと伸ばし、横に捻りながら顎の下でまた両指をクロスして組んでみせる。

「あ~~、とっても綺麗です!」

 瞳を輝かせてさっそく自分も同じく滑ってみせるヴィヴィに、母は少しずつ見栄え良く手直しをしていった。





『今期のエキシビ、コーチと自分で、一緒に振り付けたいです』

 3月の最終週――。

 世界選手権を終え、コロラドスプリングス空港のラウンジで待機している最中、ヴィヴィは母を目の前にして唐突にそう切り出した。

(いや……、本当は “マム” と振付けたいんだけど……)

 心の中でそう言い直したヴィヴィだったが、それはこの場では口にしてはいけない。

 今は試合からの帰り途中――つまり、目の前にいるジュリアンは、 “母” ではなく “コーチ” だから。

『え? 一緒に?』

 娘と同じ大きな灰色の瞳を真ん丸にしたジュリアンに、

『はい……。駄目ですか?』

 ヴィヴィは真っ直ぐに母を見つめ、そう確認する。

 母娘で振付をしたのは、2シーズン前のエキシビ『Alice in Wonderland』が最後で。

 それ以降、双子は受験勉強等で、母とゆっくり向き合う時間を取れなかった。

 だから、ヴィヴィは一緒にエキシビの振り付けをし、2人でひとつのものを完成させたかった。

 勿論、それ以外にも理由はあったが――。

『もちろん、いいわよ? 曲、決まってるの?』

『はいっ えっと……』

 2つ返事で了承し、興味深そうな表情を浮かべたジュリアンに、ヴィヴィは興奮して自分の考えを提案したのだった。



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