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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第26章
「じゃあ片づけて、お茶でも飲もうか」
匠海が東蓮華の手綱を引いて厩舎へと戻ろうとする。
「え? 匠海は乗ってかないのか?」
「あ~……。でもヴィヴィ一人にしておくの、心配だし」
匠海は高原の疑問に、そう答える。
「心配……ですか?」
木川が不思議そうに聞き返す。
「ああ。うちのべーべは目を離すととんでもないことしでかしそうだ。馬に構いすぎて蹴られたり、危ないところに入ったり、辺りを散策している間に迷子になったり……」
胸の前で腕を組んで真剣な表情でそう零す匠海に、ヴィヴィは頬を膨らませてすぐさま反撃する。
「ベーベじゃないもん! ちゃんと大人しくしてるし、迷子になんかならないってば!」
「だってさ。妹ちゃんは俺がきっちり見守ってるから、乗ってこいよ」
「高原部長のことは、僕が監視してますから。安心してどうぞ?」
高原一人に任せておいては不安だろうと、木川がそう申し出ると匠海は少し逡巡して頷いた。
「じゃあ、乗らせてもらおうかな」
匠海はそう言うと「くれぐれもいい子にしているように!」とヴィヴィに言い置いて、準備しに部室へと行ってしまった。
ヴィヴィは他の部員の乗馬姿を目で追いながら、柵の傍で匠海が出てくるのを大人しく待っていることにした。気持ちのいい天気に、時差ボケの治まらない体が若干眠気を訴えてくる。う~んと伸びをしたヴィヴィの肩に、何か小さくて柔らかいものがポンと乗せられた。
振り返るとそこにいたのは、猫――もとい高原に抱っこされた三毛猫がいた。
「東(あずま)ちび、デス。ヨロシクネ!」
裏声を使って猫の手をくいくいと動かして挨拶させる高原に、ヴィヴィは一瞬ぽかんとした後に噴き出した。
「あはは! 可愛い~!」
高原が掴んでいるちびの手を指先でつまんで握手をする。
「ヴィクトリアです。よろしく」
自己紹介して手を放したヴィヴィに、高原が「抱いてみる?」とちびをヴィヴィに近づけてきた。
「実は、猫……抱いたことなくって」
ヴィヴィの意外な返事に、高原が驚いた顔をする。
「今まで猫飼ったり、触れ合ったことないの?」
「うちはマムが猫アレルギーなので……」
ヴィヴィはそう言って残念そうな顔をしたが、すぐに興味深そうにちびの頭を恐る恐る撫でた。