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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章
「か……、かっこ、いい……っ」
無意識に両手で口元を押さえていたヴィヴィは、その細い掌の下でそう呟く。
クリスの真っ直ぐな音色と、匠海の深い音色が混然一体となって、1+1=20くらいとなっていて。
そして演奏も勿論、まるで悪戯っ子の様にじゃれ合いながら激しくチェロを掻き鳴らす姿も、とても素敵だった。
「匠海! あれやれよ~、ほら、2CELLOSみたいに、くるっとチェロ回すの」
そう囃し立てたのは、兄の同窓生の高原で。
「ははっ あんなの、演奏中に出来ないって」
そう笑い飛ばした匠海に、自分の同級生女子達から熱い視線が送られていたのを、ヴィヴィは見逃さなかった。
(むむ……っ カッコいい2人が見れるのは嬉しいけど、お兄ちゃんのファンが増えるのも困りものだ……)
そして、他ならぬヴィヴィの心もときめいていた。
(もう、本当に……お兄ちゃんは『Smooth Criminal』――滑らかに罪を犯す、華麗な殺し屋だ……。もう、ヴィヴィ、ハート、打ち抜かれてますっっ)
「クリスっ カッコいいっ 超しびれた!」
ジェシカのその黄色い声に、ジェイソンの声が被さる。
「なあ。BSTではクラシックしか、弾かなかったしな?」
「え~、高校でもクリス、弾いてたの?」
同じクラスの少しぽっちゃりめの範子が、既に仲良くなったらしいアレックスにそう尋ねれば、
「ああ。BSTは音楽の授業、力入れてたから。ヴィヴィもヴァイオリンとピアノ、よく弾いてたよ?」
そう返したアレックスに、東大のクラスメイト達の視線が自分にも向けられ、ヴィヴィは笑って誤魔化しておいた。
そうこうしていると、振付師の宮田がアンコールし出し、そのコールは皆に広がっていく。
「えっと、じゃあ……、また次も、2CELLOSの『影武者』、で……」
クリスが兄に視線を送りながらそう発すると、匠海もこくりと頷いてみせた。
「おっ 先シーズンの、クリスのSP!」
そう発した牧野マネージャーに、その振付を担当した宮田が、嬉しそうに黒縁眼鏡の顔を綻ばせる。