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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章               

 熱くなったのか、ジャケットを脱いだクリスが紺のシャツの第2ボタンを外したその姿に、離れたところで頬を染めているカレンに気付き、ヴィヴィは「か、可愛いなぁ」と心の中で萌えた。

 『Smooth Criminal』より更に激しい『影武者』を弾き熟すのは容易では無いと思えたが、彼らなりに上手くアレンジし、エネルギッシュで混沌としたその世界感は、うまく表現されていた。

 また拍手喝采を受ける兄達を、ヴィヴィも誇らしく思いながら拍手を送っていた。

 その剥き出しの背中を、つんつんと突かれて振り返れば、円がヴィヴィの手首を掴んで人混みから連れ出す。

「うわぁ……。ヴィヴィ、一生カレシ、出来ないね?」

 兄達の方を見やりながら発された円のその第一声に、ヴィヴィは綺麗に編み込まれた金色の頭をこてと傾げる。

「え……? どうして?」

「あんなに格好良い & 恰好可愛いお兄ちゃんズに囲まれて、あんたが普通の――その辺の男、に満足できる筈ないじゃん?」

「…………、……ははは」

 円の妙に的を射た指摘に、ヴィヴィは一瞬硬直し、そう乾いた笑いを零した。

(……確かに……。ヴィヴィ、ずっとお兄ちゃんしか、見てなかったし……)

 兄弟の演奏は終了したらしく、散らばっていく人混みの中から、ホクホク顔の宮田が2人に近付いて来た。

 その隣には、フィギュアファンの真行寺が嬉しそうに付いて来ている。

(もう仲良くなっちゃったんだ、真行寺さんってば……) 

 さすが営業職……と感心するヴィヴィの前で、宮田が少し悔しそうに零した。

「クリスがあんなにチェロ弾けるなんて、知らなったよ……。こんな事なら先シーズン、SPを振り付ける前に、聞かせて貰っておけば良かった……」

「ああ、そうでしたね~」

 ヴィヴィはそう同意しながらも、宮田の振り付けた『影武者』は大好きだったので、別に問題は無いと思った。

 しかしその宮田の興味は、思わぬ方向へと向かって来た。

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