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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章
「なんだい?」
「フィギュアの衣装は、特殊なものです。まずは軽さと動き易さが、第一でして……」
ジュリアンの言う通り、フィギュアの衣装は特殊な生地を用い、デザインにも不文律というものが存在する。
「そうだろうね。だから、『デザインはする』と言っている――。実際の生地選び・採寸・縫製等はそちらでして貰っていい。但し、最終的に私がOKしたものでないと、着用は許さないがね」
「あ、はい。それは、勿論です」
牧野マネージャーのその返事に、「契約書等はシャネル・ジャパンのスタッフと交わす様に」と言い渡したカールに、皆がもうこの電話は終わりだと思った。
しかし――、
「じゃあ、次はクリス。滑って見せてよ」
カールのその言葉で、少し離れたところで様子を見守っていたクリスに、その場の皆の視線が向けられる。
「……え……?」
無表情のままそう呟いたクリスに、カールは急かす。
「後10分後には、ヘリが到着するんだ。ほら、早く!」
「あ……、はい」
何だかよく分からないが、妹の衣装のデザインを引き受けてくれた高名なデザイナーの指示に、クリスはすぐにリンクに入り。
FPの音楽に合わせて滑り始めるクリスを、シャネルの広報スタッフがまたカメラで追い駆けていた。
4分半、滑り終えて戻って来たクリスに、カールは面白そうに笑った。
「クリスは “春の祭典” メインで行くんだな? いいねえ、ヴィクトリアと対照的で、実に面白い」
「……恐れ入ります」
額に浮き出た汗を柿田トレーナーから渡されたタオルで拭うクリスは、そう礼を述べた。
「じゃあ、クリスの衣装も、私がデザインするよ」
カールの言葉に、その場に居た皆が呆気に取られた。
シャネルのスタッフも同様だったので、彼らも知らされていなかったのだろう。
双子の衣装デザインを、世界のカール=ラガーフィルドが引き受けてくれる――しかも、無償で。
その喜ばしい朗報に、クリスは首を縦には振らなかった。