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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章
「申し訳ありません。僕は、映画のオープニングとエンディングに出て来る様な、 “白黒の万華鏡” をデザインに用いようと思っているので」
きっぱりと自分の意見を発したクリスに、カールは心得て頷いた。
「だからそれを、私がデザインしてあげよう」
「……え……?」
クリスの灰色の瞳が驚きの表情を浮かべ、画面の向こうのデザイナーを見つめる。
「嫌かな?」
「………………。いいえ……。光栄、です……」
「じゃあ、話は纏まったな? 詳細は日本のスタッフと詰めてくれ。じゃ!」
そこで一方的に電話回線が切られ。
日本に残された皆は、ぽかんとするしかなかった。
「クリス……。本当に、いいの……?」
ヴィヴィは心配そうに双子の兄を見上げる。
自分がシャネルのデザインを使いたいと言い張ったが為に、クリスを巻き込んでしまった気がして。
「大丈夫だよ、ヴィヴィ……。万が一、寄せられたデザインが気に入らなかったら、断ればいいだけだ……。そうでしょう……?」
そう確認するようにクリスが振り向いたのは、シャネルのスタッフ。
広報の面々はクリスの確認に、心得て頷いた。
「一度でデザインが固まるとは、彼も思ってはいない筈です。満足がいくものになる様、希望は遠慮無く仰る事をお勧めします」
かくして、双子のFPの衣装作成は進んでいった。
しかし、その選択は正しかったのか――?
以降、苦悩の日々を送る事になるとは、その時のヴィヴィは1mmも想像もしていなかったのだ。
5月15日(土)からの2日間。
本郷キャンパスでは、第95回五月祭(ごがつさい)が開催されていた。
東大には大きく分けて、9つのキャンパスが存在する。
本郷、浅野、弥生、小石川、駒場、中野、白金、田無、三鷹。
その中で、学園祭が行われるのは、
1~2年生の教養学部生が学ぶ、駒場キャンパスの駒場祭。
3~4年生の多くが学ぶ、本郷キャンパスの五月祭。
もちろん双子はクラスメイトと一緒に、五月祭へと向かった。