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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第106章
そう、バレエの『ペトルーシュカ』は、一種 不気味。
謝肉祭の市場の陽気さ と 踊る藁人形の恋と殺人のグロテスクさ。
そのコントラストにより、不思議と引き寄せられる魅力がある作品。
「クリス、永口さんと同じ様に、 “終景:ペトルーシュカの死” 動いてみて?」
宮田の指示に、クリスは永口に習い、コミカルにも見える踊りを模倣し。
それを見ながら、宮田と平林は編曲と構成を組み立てていったのだった。
土日はほぼみっちり1日中、宮田と平林は氷上と陸で振付を施し。
結構すぐに振付が完成してしまったヴィヴィは、リンクのフェンスに外から凭れ掛かりながら、クリスの振り付けを見守っていた。
スケート靴を履いた宮田が、薄いミュージックプレーヤー片手に、振付の細部をクリスに伝えていく。
「ロッカーからカウンターのところ、こう……、ムーア人に半月刀で切りつけられて、上方に大きく両腕を伸ばして反り返り……、そうそう。で、上体倒すところ、左から肩入れて、右肩は有り得ないくらい背中の方に反らせて……。う~ん、右腕もうちょっと……。そう!」
勘の良いクリスは、すぐに宮田の欲している事を理解し、全身で表現してみせる。
けれど最終的には、身体だけでは駄目なのだ。
それはヴィヴィも同様で――双子が演じるのは、人間ではなく藁人形。
いつも不自然な笑顔で澄ましたバレリーナ(ヴィヴィ)と、情けないくらい滑稽で悲壮な表情を浮かべるペトルーシュカ(クリス)。
(うん……。ペトルーシュカって、ロシア版の “ピノキオ” って感じだけど……。なんか “道化師” っぽくもあるんだよね~……)
ペトルーシュカは赤い帽子に赤い手袋、だぶだぶのピエロの如き衣装、白塗りの顔には大きな眉毛・裂けた大きな赤い唇・真っ赤な頬が描かれている。
ちなみにバレリーナの頬も赤いので、ジュリアンは「絶対に双子のほっぺた、赤く塗ってやるっ!!」と、どうでもいい事に燃えていたのだった。